今年1月、群馬県警の24歳の巡査が「かわいかったので仲よくなりたかった」と、小学4年生の女児を連れ去ろうとする事件が起こった。父親の「下の名前」を少女に伝えて警戒心をとき、父親が交通事故にあったと伝え、車に乗せようとしたらしい。巡査は2月中旬、未成年者誘拐未遂容疑で逮捕された。
この巡査が父親の名前を知るために利用したのが、交番にある「巡回連絡カード」なるものだ。担当地区にあった少女の自宅を訪問した際に少女をみかけて気に入り、巡回連絡カードで家族構成や父親の名前を確認したという。
はたして、こんな悪用までされてしまう「巡回連絡カード」とは何なのか? 警察の問題にくわしい永芳明弁護士に聞いた。
●家族の生年月日や連絡先を記入する
「『巡回連絡カード』とは、警察が行う活動の一つ『巡回連絡』の際に作成されるカードです」
このように永芳弁護士は説明する。
「『巡回連絡』とは、交番の地域警察官が、受持区の家庭や事業所を訪問し、犯罪・事故の被害防止に必要な事項について指導・連絡するものです。また、住民の困りごとや意見・要望等の聴取、受持区の実態把握等の目的で実施されています。
その法的根拠は、警察の責務について定める警察法2条1項であると説明されています。もっとも、この条項は包括的に警察の責務を定めたものであり、『巡回連絡』や『巡回連絡カード』そのものについて定めたものではありません」
巡回連絡カードとは、実際にはどんなものなのか。
警察庁は1999年に全国の警察に対して「巡回連絡実施要領の改正について」と題した通達を行っているが、その中で「巡回連絡カード」の様式の例をあげている(=写真)。写真にあるように、同居する家族の名前や生年月日、勤務先、学校、非常時の連絡先を記入する。必要に応じて、英語や中国語などで作成することもあるそうだ。
●巡回連絡カードの記入は「任意」
では、記入を拒むことはできるのだろうか。
「『巡回連絡カード』の記入を強制できる法的根拠はありません。これを拒んだとしても罰則もありませんし、任意です」
ところで、巡回連絡カードは地域の交番で管理しているというが、警察官のパトロール中に無人になる交番だってある。保管方法に問題はないのだろうか。
「保管は、鍵の掛かるキャビネットで行うなどと説明されていますが、警察官自身が悪用することは想定されていなかったと思われます。
今後は、警察官の職業倫理の徹底を図るとともに、『巡回連絡カード』の記入に応じた多くの市民の不安を取り除くよう、利用目的を再確認のうえ、再発防止策がとられるべきでしょう。
また、この機会に『巡回連絡カード』以外の警察保有情報についても、管理の方法等の再点検がなされるべきです」
永芳弁護士はこう述べていた。巡回連絡カードには、災害や犯罪が起きたときに、本人確認や家族への連絡がスムーズに進むといったメリットがある。しかし、「紙」以外の手段を含めて、運用面については、再考が求められているのではないだろうか。