大阪府と大阪市、関西経済界が設立した大阪観光コンベンション協会(通称「大阪観光局」)が中心となって2014年に開催した音楽イベントで、1億円近い赤字が出たことに対して、イベントの実行責任者だった理事が約2700万円を個人的に「自腹補てん」したことが問題となっている。
公的な性格の強いイベントの「赤字」の一部を個人負担するという異例の行動を取ったのは、イベントの担当理事で、大阪観光局長を務める加納国男氏。2月6日には、イベントに損害が生じた場合、加納氏個人が負担するという「覚書」が、大阪府と観光局と加納氏の間で事前に結ばれていたことが報じられた。
大阪府によると、覚書は、イベントの2カ月前の2014年2月に交わされた。内容は「音楽イベントで損害が生じた場合、大阪観光局と加納氏が連帯して責任を負う」というものだ。観光局によると、さらに観光局と加納氏の間で「損害が発生した場合、加納氏が責任を負う」という覚書が結ばれていたという。
●個人負担の「覚書」は法的に問題ないのか?
問題となったイベントは、2014年4月、大阪城西の丸庭園で開かれた「大阪国際音楽フェスティバル」。観光局などでつくる実行委員会(委員長:加納氏)が、世界的なジャズ・ピアニストらを呼び寄せたが、チケット販売が伸び悩み、約9400万円の赤字が発生。加納氏は、覚書にしたがって、その一部を自費で補てんした形だ。
昨年11月の産経新聞によると、加納氏は赤字を個人負担した理由について「税金に手をつけられない」「(自分が)かなり強引に開催しようと頑張った」と説明している。また観光局は、弁護士ドットコムニュースの取材に対して「個人補てんは法律的には問題ない」と回答している。
だが、自治体がからんだイベントで発生した損害を個人が負担するというのは、いきすぎにも思える。また、個人負担を明記した覚書は、本当に問題ないのだろうか。西口竜司弁護士に聞いた。
●公序良俗違反で「覚書」が無効となる可能性も
「今回の問題について、初めはあまり気に留めておらず、個人的に赤字を補てんするなんて、局長はすごい人だな、としか思っていませんでした。
一般的に、個人で赤字を補てんしても、寄付と同様に『個人の自由』です。税務上(贈与税)の問題はあるけれども、法律的にみて、そんなに大きな問題はないだろうと思っていました」
しかし、西口弁護士は、事前に個人負担に関する「覚書」が結ばれていたことを受け、「それはまずいでしょ」と考えが変わったという。西口弁護士は「あくまで私見ですが・・・」と断りながら、次のように述べる。
「いくら約束だったとしても、今回の覚書の内容は『公序良俗違反』に該当して無効となる可能性があります(民法90条)」
どうして、そのように言えるのだろうか。
「一般的に、大阪府は力の強い大きな組織です。そのような組織が、関連団体である大阪観光コンベンション協会(大阪観光局)との間で『損害が出た場合、責任をとらない』という覚書を交わしていたわけです。
両者の力関係からすれば、対等の立場で覚書を交わしたとは、到底考えられません。大阪観光コンベンション協会と加納氏の間の覚書も同様だと思います」
●覚書が無効になったら、どうなる?
さらに、西口弁護士は次のように続ける。
「行政法の観点からしても、国や地方公共団体が当事者となる『行政契約』の内容が、明らかに不合理である場合、無効とされる場合があります。
また、本件とは直接関係はありませんが、会社がその地位を利用して取引先に不当な要求をしたような場合、独占禁止法の優越的地位の濫用にあたるとして違法になるとされています。
このような考え方は、今回の覚書が有効かどうかの判断に影響を及ぼすものといえます」
もし仮に、覚書が無効になれば、どうなるのだろうか。
「赤字を自費負担する理由はなくなりますので、加納氏には、補てんした約2700万円の返還を求める権利が発生するでしょう。
もちろん、実際に訴訟になれば、さまざまな事情を考慮して判断されるわけですから、必ず、このような結論になるとは限りませんが・・・」
西口弁護士はこのように説明していた。