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学校で「法律を学ぶ機会」もっと増やすべきか? 弁護士19人の「賛否両論」
法律書は、専門的な内容のものが少なくない

学校で「法律を学ぶ機会」もっと増やすべきか? 弁護士19人の「賛否両論」

もっと法律を学ぶ機会がほしかった――。日本労働組合総連合会(連合)は11月下旬、「学校教育における労働教育」についての調査結果を発表した。そのなかで「働いていて困った経験がある」と答えた若年層労働者の約7割が、「働く上での権利・義務を学校教育でもっと学びたかった」と回答していることが注目を集めた。

調査は今年10月、現在就業中の18〜25歳の若年層労働者(アルバイト学生を除く)を対象に行われた。「働いていて困った経験がある」と答えた人は58%にのぼったが、そのうち36.4%は「何もしなかった」という。その背景には労働法などの知識不足があることが考えられるが、連合の調査でも「学校で、職場でのトラブルや不利益な取り扱いへの対処法を学んだ」という回答が3割に満たないという結果が出ている。

一方で、「働く上での権利・義務を学校教育でもっと学びたかった」と答えた人は、7割にのぼっており、そうした労働法に関する知識を習得したいというニーズがあることがうかがわれる。

このような労働関係の法律に限らず、「法教育」の必要性を訴える声は少なくない。日本の学校教育において、法律を学ぶ機会をもっと増やすべきなのだろうか。増やすとすれば、具体的には、どんな法律について学ぶべきなのか。弁護士ドットコムに登録している弁護士に意見を聞いた。

●「増やすべき」という意見が優勢

学校において、法律を学ぶ機会を増やすべきか否か。弁護士ドットコムでは、そのような質問を投げかけ、以下の3つの選択肢から回答してもらった。

1 法律を学ぶ機会を増やすべき→14票

2 法律を学ぶ機会を増やす必要はない→2票

3 どちらでもない→3票

19人の弁護士から回答が寄せられた。回答は<法律を学ぶ機会を増やすべき>に集中したが、少数ながら<増やす必要はない><どちらでもない>という意見も見られた。

そのうち、自由記述欄で意見を表明した弁護士17人のコメント(全文)を紹介する。(掲載順は、増やすべき→増やす必要はない→どちらでもないの順番)

●法律を学ぶ機会を「増やすべき」という意見

【西口竜司弁護士】
「法律を学ぶ機会を増やすべきだと思います。
まず、自転車の運転に関連して、道路交通法や民法の不法行為の条文も知っておく必要があります。また、バイトに関連して、労働契約法や労働基準法などを学んでおかないと不当な労働を強いられる可能性があります。さらに、スマホを保持しているので、インターネット犯罪に関する刑法の知識や消費者契約法等を知っておく必要があります。子供は、将来的に主権者として投票を行うことになりますので憲法を学んでおくべきだと思います」

【秋山 直人弁護士】
「特に、労働法の知識は、義務教育である程度のところを身に付けておく必要が高いと思います。そうでないと、ブラックバイトとかブラック企業で働くことになったときに、おかしいと思っても、声を上げられないで終わる可能性が高くなってしまいます。
また、若年者が消費者被害にあわないよう、悪質商法の具体例や対処法なども義務教育で教える必要性が高いと思います」

【濵門 俊也弁護士】
「一般論としては、法律を学ぶべき機会を増やすべきであると日ごろから考えております。法律を知らないがために人の幸不幸が決まるのはおかしいというのが、当職が法曹を目指した原点でもあります。
具体的に学ぶ(といいますか、『くらしの法律Q&A』のようなライトなものでよいと思います。)法律ですが、
『日本国憲法』、『家族法』、『消費者法』、『労働法』、『刑法』、『インターネットに関する法』、『著作権』等、日常生活にありがちな法律問題について簡易な回答をするという類のものでよいと思います」

【大貫 憲介弁護士】
「小学校低学年から少しずつ教えるべきです。
まず、身近な法律問題への対処方法等をわかりやすく説明するのがよいと思います。
私が関わった案件でも、小学校低学年の子が、親から虐待を受け、警察等に逃げ込んだ事例が数例あります。逃げる選択肢を知っていれば、危険を回避できる可能性があります。深刻になる前の、弁護士会や行政等への相談が有効なこともあるでしょう。
学年が進むにつれ、いじめなど学校の問題、家庭問題、労働問題など、教えるべき内容も増やしていくべきでしょう」

【野口 眞寿弁護士】
「法律を学ぶ機会は必ず必要です。
日本はこれまで、こうした難しいものの重要な問題についての教育を怠ってきたと考えています。
そうした『ツケ』が社会の様々なところに現れています。
契約とは何なのか、契約書はなぜ重要なのかという基本的な事項について教えるべきです。
契約書がしっかりと整っていれば大きなトラブルになることもなく解決できただろう事件が非常に多く、口約束だけで相手に大金を貸してしまい、返済を受けられないというケースもあるのです」

【岡田 晃朝弁護士】
「法律を学ぶ機会を増やすべきです。
民主主義や基本的人権といった抽象的だが重要な権利を教える機会と同時に、消費者契約や交通法規など身近な法律についても教えていくべきでしょう。
そもそも学校教育は、『国家・社会の形成者として共通に求められる最低限の基盤的な資質の育成』ということが目的の一つにあり、そうである以上、法律は最重要な必須科目であると思われます」

【居林 次雄弁護士】
「法治国の日本として、法学部に進まない人々にも、広く、法律の知識を得てもらうことは、望ましいことであります。日本では、弁護士の数は、アメリカに比べて、極端に少なくて済んでいるのは、日本人が割合に、法律知識を広く習得して、アメリカのように訴訟に依存して、弁護士に依頼する度合いが低いことが、一つの特徴であると、思われます。
訴訟社会を招かないためにも、学校で、広く法学教育をしておくべきでしょう。
特に憲法が、最も大切ですから、必須科目として、学校で教えておくことが望まれます」

【矢野間 浩司弁護士】
「暮らしに身近なトラブルに関する法律がよいでしょう。
暮らしに身近なトラブルの例として、交通事故、消費者問題、離婚、相続、刑事事件などがあります。法律としては、民法、刑法、消費者法、それに憲法などでしょうか。
毎年、中学生にお話をする機会がありますが、みんなとても熱心に話を聞いています。法律にとても興味を持っているのだと思います。
学校で法律を学ぶ機会が増えるといいですね」

【近藤 公人弁護士】
「人間は、生きる上で、労働し、収入を得る必要があります。多くの人が労働者になりますし、経営側でも、労働法を知っておく方が、トラブルになりません。従って、労働法は、必須だと思います。特に、ブラックアルバイトなど言われるように、アルバイトでも労働基準法の適用がありますが、これを知らない人が多すぎます。
法学一般も必要です。法的な考え方を教える必要もあります。なぜルールが必要なのか、そして、統治機構の意味や投票する意義を教える必要があります。今回の総選挙の投票率は悪すぎます」

【桑原 義浩弁護士】
「法律を学ぶ機会は、増やしてもいいと思います。
最近は、ゲストティーチャーで弁護士が学校に行って話をすることが増えてきているように思いますが、こういった授業は増えていってほしいと思います。
ただ、法律をしっかり学ぼうとすれば、時間的には不十分なのは間違いないと思います。少なくとも、法的なセンス、あるいは、おかしいと思ったら相談してみることができるような基礎的な素養、それを学ぶ機会は、あってもいいのではないかと思います」

【武市 尚子弁護士】
「未来の有権者が『法の考え方』を学ぶことはとても大切なことだと思います。
法律の各論を知識として学んでも、あまり意味はないと思いますが、
『憲法』を基軸に『労働法』や『消費者法』の考え方を理解しておくことは、
今後市民として社会の一員として活動していく子どもたちにとって重要なことではないでしょうか」

【湯本 良明弁護士】
「将来どのような職業に就くにせよ、現代社会はあらゆる面で法律で規制されているのであるから、教育課程において法律に関する学習をさせることは、子供の将来を考えるべき教育機関として義務とも言ってよいことだと思う。実際、法律を知らないことにより、罪を犯してしまう人はいるだろうし、詐欺にあっても泣き寝入りしてしまう人もいるだろう。このような事態を解消するためには、民法(契約法、親族・相続など)、刑法、労働法など一般の方たちと密接な関係があり、かつ日常生活に直結している法分野の教育を行うべきではないか」

●法律を学ぶ機会を「増やす必要はない」という意見

【柴田 収弁護士】
「法律を教える時間を確保するとしたら、その分どの科目の時間を削減するべきなのでしょうか?
国語?英語?数学?
それとも授業のコマ数を増やすのですか?
法律そのものをしっかり教えようとしたら、相当な時間を確保する必要が生じます。法律的な思考方法や法律の根本にある価値観を道徳の授業や現代社会の授業で教えるというなら意味があると思いますが、具体的な法律そのものを教えるのは、費用対効果が悪すぎると思います」

【萩原 猛弁護士】
「中途半端な『法律知識』は有害無益である。学校で教育すべきは『法の精神』である。平和で民主的な社会の形成に尽力できる『力』を涵養することが重要である。他者の立場を尊重し、全ての社会成員と協調するためにどのような方法でルールを策定するのが正義に適うのか、このようなことを学ぶための『法教育』を充実させるべきである。子供達が『法教育』のもと『法の精神』を身に付けた自立的個人に成長を遂げれば、理不尽な事態に直面しても、法律専門職にアクセスして適正な解決を目指すといった合理的な対応が可能となるのである」

●「どちらでもない」という意見

【林 朋寛弁護士】
「働く際の権利義務を学ぶのは良いことです。
ただ、法律クイズを覚えさせるようなことにならないようにすべきです。
法的知識の前に、義務を果たさないで権利を主張するななどという嘘によって黙らされたりしないために、主張すべきときには主張すべきということから教えていくべきだと思います。
専門家の助力を得ることを躊躇しないように、助けを求めることは悪いことではないことや相談方法などの最低限の教育も必要です。
その上で、憲法・法律の原理原則や歴史的背景といった基本を教えてはいかがでしょう」

【青野 壽和弁護士】
「教えなくてはいけないことの多い学校教育で、ただ法律知識を教えても、あまり意味がないのではないでしょうか。
実際、消費者法制や労働法制に関しては、現在でも中学や高校で学ぶことになっていますが、それが活用できているかはまた別の問題です。
『社会では、詐欺や解雇や離婚や逮捕といった不都合なことに巻き込まれる可能性があるし、加害者にも被害者にもなる可能性があるから、その場合決して法律は他人事ではない』
ということをどれだけ説得力をもって教えられるかが、学校で法律を教える際の鍵だと思います」

【寳耒 隆弁護士】
「学問としての法律学ではなく、自分の権利を守るために必要な最低限の法律知識を学ぶ場を設けるべきと考えます。
ブラックバイト、マルチ商法・・・世の中には危険がいっぱいです。
しかしながら、法知識がないと『違法かも』という思いすら抱くことができず、なかなか助けを求めることもできません。
このような点から、より多くの人に、身を守るための法知識を身につけてほしいと思っています」

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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