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男子だけど女子大で勉強したい!「公立女子大」が男子入学を認めないのは憲法違反?
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男子だけど女子大で勉強したい!「公立女子大」が男子入学を認めないのは憲法違反?

男子だけど女子大に進学したい――福岡市にある公立大学・福岡女子大に入学願書を受理されなかったとして、福岡県在住の20代の男性が大学を相手取って、受験生の地位があることの確認を求める訴訟を起こす。そんなニュースが報じられ、議論を呼んでいる。

報道によると、男性は栄養士の免許を取得するため、カリキュラムがある福岡女子大の「食・健康学科」の社会人特別入試に出願したが、受理されなかった。男性は、公立大に進学できないと、経済的な理由で進学を断念せざるえないので、「願書の不受理」は憲法14条(平等原則)や26条(教育を受ける権利)に違反すると、主張しているという。

女子大に入学できるのは女性だけだ。そう考えている人もいるだろうが、今回のような男性の主張が認められる可能性はあるのだろうか。憲法問題にくわしい村上英樹弁護士に聞いた。

●古くから議論されてきた問題

「男女別学、特に国公立女子大学が『憲法違反ではないか』という問題は、実はかなり古くから論じられてきた問題です」

村上弁護士はこう切り出した。どういった点が、憲法違反と考えられてきたのだろうか。

「憲法14条は、性別による差別を禁じています。また、憲法26条では、教育の機会均等がうたわれています。そうすると、国が運営する『国立女子大学』は、憲法14条と26条に反するようにも見えます。

これが私立なら、裁量の幅が広いのですが、国公立は税金で維持され、より公的な性格が強いだけに、より厳密に考える必要があるのです」

●「合理的区別」なのか?

たしかに、男性が女子大に入れないのは、完全に平等とは言えないだろう。

「ただし、憲法14条や26条があるといっても、希望すれば誰でも大学に入学させなければならない、ということではありません。

入学の条件が女子のみであることが『合理的な区別』であるならば、憲法違反にはなりません。

なので、問題は、その大学が女子のみの入学しか認めないことが『合理的な区別』として許されるかどうかにかかってきます」

では、「女子大には女子しか入学を認めない」というのは「合理的区別」と言えるのだろうか。

「憲法に関する学説の中には様々な見解があります。

憲法学者の多くは、国公立の女子大が『憲法の精神に反しているのではないか』という疑いを持っているようです。

ただ、憲法違反の『疑い』はあっても、違反とまでは言えない、という説もあります」

なぜだろうか?

「歴史的に、女子は、高等教育を受ける機会が制約されてきた事実があります。そういったことから、女子大の存在には合理性があるという考えもあるからです。

しかし、平成11年(1999年)に男女共同参画社会基本法が成立し、社会のあらゆる分野で男女共同参画が進んでいます。

いま、あえて女子のみの大学が存在する合理性を認める根拠は、薄くなっているとも言われています。

なお、政府は、平成12年(2000年)に、国会議員からの質問主意書に対する答弁で、『憲法及び教育基本法によっても、全ての学校における男女の共学が強制されるわけではない、従って、国立の大学が男女別学であっても憲法違反にならない』との見解を出しています」

●裁判所の判断に注目

今回のケースはどのように考えればよいのだろうか。

「今回のケースについて、原告が入学を希望している女子大は、女子学生のみの存在を前提とした施設や制度で運営されてきました。

願書を出されたからと言って、直ちに男子学生を受け入れることができるかという現実的な問題があると思います」

たしかに、設備だけでも、トイレや更衣室など、男子学生が入学した場合、新たに作らなければならない設備もあるだろう。そうした負担を考えると、やはり現実的ではないのだろうか。

「ただし、さきに述べたように、国公立大学の男女別学については、もともと憲法上も議論があるところです。

また、提訴した男性の立場での、『栄養士免許を取得するための有力な機会が失われる』という点も軽視できないと思います。

こうした点をかんがみて、『この大学が女子のみに入学を限っている合理性がどの程度あるのか』という点が、ポイントになるのではないでしょうか。

特に男女共同参画が進んでいる社会背景の中、今回の訴訟で裁判所がどのような判断を示すかは注目されるところです」

村上弁護士はこのように分析していた。憲法上の重要な問題をはらんだこの裁判。引き続き、その動向を注視していくべきだろう。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

村上 英樹
村上 英樹(むらかみ ひでき)弁護士 弁護士法人神戸シティ法律事務所
主に民事事件、家事事件(相続、離婚など)、倒産事件を取り扱い、最近では、交通事故、企業顧問業務、不動産問題、労働災害、投資被害、医療過誤事件を取り扱うことが多い。法律問題そのものだけでなく、世の中で起こることそのほかの思いをブログで発信している。

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