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人間ピラミッド崩壊で「1億円賠償」判決もーー弁護士が指摘する「組体操」のリスク
組体操は、運動会で最も盛り上がる競技の1つだ

人間ピラミッド崩壊で「1億円賠償」判決もーー弁護士が指摘する「組体操」のリスク

「人間ピラミッド」に代表される組体操。その華々しさの裏にある、ケガのリスクに注目が集まっている。日本スポーツ振興センターが公表した資料『学校の管理下の災害』によると、小学校の組体操の事故は、2012年度に約6500件も発生していたという。

この資料を分析した名古屋大学の内田良准教授は「Yahoo! ニュース個人」の記事やツイッターで、組体操の事故の多さを指摘。人間ピラミッドの巨大化・高層化が進んでおり、中には10段以上の人間ピラミッドに挑戦するケースもあるとして、「それほどのリスクを冒してまで巨大化・高度化を目指す必要があるのか」と批判している。

このように、リスクが指摘されている組体操だが、学校教育に取り入れることに、問題はないのだろうか。また、事故が発生した場合、どんな法的責任が生じる可能性があるのか。教育問題にくわしい多田猛弁護士に聞いた。

●「スポーツをさせない」だと、成長の機会が奪われる

「一般論として、学校の授業や行事において、教職員の不注意や不適切な指導で、児童・生徒がケガをした場合、損害賠償責任が発生します。

これは、運動会の本番に生じる場合でも、授業における練習中に生じる場合でも同様です。

責任は、公立なら原則として国や自治体が、私立なら学校や指導教員が負います」

ケガをするリスクがあるような種目は、すべて取りやめるというわけにはいかないだろうか。

「『ケガをするからスポーツをさせない』という考え方では、逆に子どもたちの成長の機会を奪うことにもつながります。

なるべくケガをしないように安全にスポーツすることや、万一ケガをしても、その結果を最小限にとどめることなどを教えるのも教育です。ですから、教職員の役割は、なるべく子どもたちが安全にスポーツをするよう、指導することです。

その指導が適切ではなく、事故の発生を防止するために十分な措置を講じていなければ、賠償責任を負うことになります」

●8段の人間ピラミッドで「1億円」の賠償

「人間ピラミッド」を指導する側は、いったい何をすれば「十分」なのだろうか?

「組体操について、一つ注目すべき裁判例があります。平成5年(1993年)5月11日に福岡地方裁判所で出た判決ですが、こんな事例でした。

ある高校の体育大会の種目として、8段の『人間ピラミッド』が採用されました。授業中にその練習をしていたとき、ピラミッドが崩壊してしまい、最下段の生徒が脊髄骨折等の障害を負うという事故が起きました。

結論としては、指導教諭らの責任が認められ、学校の設置者に対して1億円を超える賠償を命じる判決が下されました」

裁判所は、どういった理由で責任を認めたのだろうか。

「この裁判例では、『人間ピラミッド』を採用したこと自体は問題ないとされました。

一定の危険はどのスポーツにも内在するものであり、『人間ピラミッド』は比較的安全なスポーツに属すると判断されたのです。

また、『人間ピラミッド』は、高校の学習指導要領にある『体操』『スポーツ』等に類似するという判断で、体育授業の一内容として認められました」

では、いったい何が問題とされたのだろう。

「判決では、高さ5メートルにもおよぶ8段のピラミッドは、『危険だ』と判断されました。実施するに当たって、指導にあたる教諭と学校が危険性を十分に留意すべきであった、と言及しています。

つまり、『8段ピラミッドを採用した経緯が安易であったこと』、また『危険回避の方法を工夫することなく、技術指導も不十分』だったということで、指導教諭らの責任が認められたのです」

●危険を避けるカリキュラムづくりが必要

とすると、「人間ピラミッド」を運動会や授業に取り入れること自体は、問題ないということだろうか。

「いえ、そうとも限りません。8段を超えるような『人間ピラミッド』を作ること自体、非常に危険ですし、生命に関わる重大な事故を招くことがあります。

わざわざ極めて危険なスポーツを運動会や授業に取り入れること自体が、『児童・生徒に対する安全配慮義務に反する』という考え方も十分にありえるでしょう。

学校と教職員は、過去にどれほど重大なケガが生じ、どのような賠償責任を負っているか、十分に研究して、極力大きな危険は避けるカリキュラム作りが必要だと思います」

多田弁護士はこのように指摘していた。

(弁護士ドットコムニュース)

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

多田 猛
多田 猛(ただ たけし)弁護士 弁護士法人Next
弁護士法人Next 代表弁護士。第二東京弁護士会・子どもの権利に関する委員会 委員。ロースクールと法曹の未来を創る会 事務局次長。ベンチャー企業・中小企業を中心とした企業法務、子ども・家庭の法律問題をはじめ、幅広い分野で活躍。

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