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小保方さんの博士号「学位を取り消す」早稲田大学が「猶予付き」の決定・配布資料(全文)
記者会見にのぞむ早稲田大学(鎌田薫総長)

小保方さんの博士号「学位を取り消す」早稲田大学が「猶予付き」の決定・配布資料(全文)

理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの研究ユニットリーダー小保方晴子さんの「博士論文」の不正疑惑について審査していた早稲田大学は10月7日、小保方さんの博士号について「学位を取り消す」と結論付けた。ただし、一定期間の猶予を設け、博士論文として適切なものに訂正された場合には、学位を維持するとした。

今回の決定に関する記者会見の会場で、記者向けに配布された資料の全文は次のとおり。

●早稲田大学における博士学位論文の取り扱い等について

 早稲田大学は、大学院先進理工学研究科において生じた博士学位論文に関する研究不正問題について、学内で慎重に協議を重ね、(1)「学問の府」として不適切な内容を含む学位論文がそのまま公開されている状態を放置しない、(2)「教育の場」として指導と責任を放棄しない、という2つの基本方針に従って、下記の結論を出しました。あわせて、その他の博士学位論文についても自主調査を進め、不適切な論文に対する対応方針を決定するとともに、こうした事態の再発を防止するために、研究倫理教育の在り方、質の高い研究者を育成する研究指導体制の在り方、厳格な審査体制のあり方等をまとめた「課程博士における博士学位および博士学位論文の質向上のためのガイドライン」も策定いたしました。

1.博士学位の取り消しについて

■概要

 早稲田大学は、下記博士学位論文について、大学院先進理工学研究科における予備調査、2014年7月17日に総長に提出された「早稲田大学大学院先進理工学研究科における博士学位論文に関する調査委員会」による調査報告書等に基づいて、慎重に協議を重ね、2014年10月3日の早稲田大学研究科長会の議を経て、10月6日付で、小保方晴子氏に授与された博士学位の取り消しを決定した。ただし、先進理工学研究科における指導・審査過程に重大な不備・欠陥があったものと認められることから、一定の猶予期間を設け、論文訂正と再度の論文指導並びに研究倫理教育を受ける機会を与え、これが適切に履行され、博士学位論文として相応しいものになったと判断された場合には、取り消すことなく学位を維持するものとした。なお、上記の修正が定めた期間内に完了しない場合は、学位は取り消されるものとする。

■経緯

 早稲田大学は、2014年3月31日、先進理工学研究科からの要請を受け、小保方晴子氏の博士学位論文に関する調査委員会を設置し、同年7月17日に調査報告書の提出を受けた。

 同調査報告書は、大学院先進理工学研究科の審査分科会および研究科運営委員会での合否判定時に閲覧に供され、最終的に国会図書館に送付された本件博士学位論文は論文執筆の初期に書かれた下書きに類するものであって、本来最終版として提出されるべき論文(小保方氏主張論文)があったものと認定するとともに、本件博士学位論文について複数の不正箇所が存在するが、本学学位規則第23条にいう「不正の方法により学位の授与を受けた事実」を認定することはできず、当該学位を取り消すことはできないとした。

 しかしながら、早稲田大学は、調査報告書の事案認定を踏まえながらも、小保方氏が公聴会による実質的な審査の対象となった論文とは大きく異なる博士学位論文を提出したことは、研究者としてわきまえるべき基本的な注意義務を著しく怠ったものであり、これによって最終的な合否判定が行われたことは「不正の方法により学位の授与を受けた事実」に該当すると認定し、博士学位の取り消しを決定した。

 ただし、誤って提出された学位論文に対して、博士学位が授与されたことについては、先進理工学研究科における指導・審査過程に重大な不備・欠陥があったものと認められることから、概ね1年間程度の猶予期間を設けて、博士論文指導と研究倫理の再教育を行い、論文を訂正させ、これが適切に履行された場合には学位が維持できるものとした。なお、これが適切に履行できないときは、当然に学位は取り消される。

【早稲田大学学位規則23条】

 本大学において博士、修士または専門職学位を授与された者につき、不正の方法により学位の授与を受けた事実が判明したときは、総長は、当該研究科運営委員会および研究科長会の議を経て、既に授与した学位を取り消し学位記を返還させ、かつ、その旨を公表するものとする。

2.教員処分について

■概要

 調査報告書が指摘している通り、先進理工学研究科の指導・審査体制には以下のような不備があった。外部研究機関に小保方氏を派遣したことにより研究指導面での制約があった上に、研究倫理や博士論文作成方法について研究指導教員である主査の指導と教育が十分に行き届かなかった。また、2011年1月の公聴会開催4日前に提出された公聴会時論文について、主査・副査が論文に修正点を赤字で書込み小保方氏に手渡しているにも関わらず、主査は博士論文最終版が提出された際にそれらの修正が反映されているか否かを確認しなかった。また、それを確認する制度上の保障もなかった。主査に通常、期待されるこれらの確認作業を怠ることがなければ、またそれを看過する制度上の不備が無ければ、多くの不備を有している本件博士学位論文を先進理工学研究科が受理し、早稲田大学博士学位を授与することは回避できたと考えられるため、主査および副査について以下の処分を下した。また、総長および当時の研究科長は、管理責任をとり、自主的に役職手当等を返上することにした。

・指導教員でかつ主査であった者 停職1か月。

・副査であった本学教員 訓戒。

・総長 役職手当の20%5か月分を返上。

・当時の研究科長 役職手当の20%3か月分相当額を返上。

3.その他の不適切な博士学位論文について

■概要

 早稲田大学は2014年3月より、すべての研究科に対して不適切な博士学位論文の有無に関する自主調査を依頼し(不適切な博士学位論文とは、不正行為の認められる研究倫理的に不適切な博士学位論文、誤りの認められる学術的に不適切な博士学位論文、および、著しい過失によって結果として捏造・盗用に等しいような不適切箇所を含む博士学位論文をいう)。

 現在までに約700件の確認が終了しているが、すべての博士学位論文について学位授与に相当する研究の実体が確認されたが、研究の本質的な部分以外の部分に不適切とみなされる箇所のある博士学位論文が複数発見された(研究の本質的な部分とは、学位論文に記載されている研究の根幹をなす著者独自の着想あるいは新規な事実の発見とそれに基づく学問的帰結のことであり、学位授与の判定において特に重視される部分をいう)。

■不適切な博士学位論文の取扱い

 不適切な博士学位論文について、不正の方法により学位の授与を受けた事実が判明したときは、学位規則第23条に則り、学位を取り消す。学位の取り消しにあたらなくても、その博士学位論文の放置が不適切と判断される場合は、本人と連絡を取り、適切な是正措置を行い、経過を公表する。

 以上について、研究科の特性を考慮した具体的な処理手続きの策定を全研究科に指示した。

4.再発防止策について

■概要

 早稲田大学は、従来の倫理教育、指導体制、審査体制を見直し、より厳格な指導・審査体制を整備するため、本年4月より再発防止策の策定に取り組んできた。研究科長会における複数回の審議を経て、本年10月6日に、研究倫理教育の在り方、質の高い研究者を育成する研究指導体制のあり方、厳格な審査体制・過程のあり方等をまとめた「課程博士における博士学位および博士学位論文の質向上のためのガイドライン」を策定し、すべての大学院研究科に対し、同ガイドラインに基づいて、研究科の特性に応じた研究指導体制および学位論文審査体制を再構築するよう、指示した。

 今後は、研究科長会において継続的に実施状況を確認し、評価・改善に努めることとする。

♦︎「博士学位および博士学位論文の質向上のためのガイドライン」主要項目

①研究倫理教育:学位取得の必修要件とし、研究科毎に研究倫理教育責任者を置く

②指導体制:副指導教員を必置とする指導体制の強化、および論文作成途中の提出物や指導記録の系統的管理の徹底

③審査体制:審査の公開、審査手順と期間、審査員の役割と責任の明確化

④博士学位論文最終版の提出:学位論文の最終版提出の手順と方法

「課程博士における博士学位および博士学位論文の質向上のためのガイドライン」(PDF)

(弁護士ドットコムニュース)

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