「そこの寝ているやつ、教室から出て行け!」――。東京の私立大学に通う女子大生のAさんは、必修科目である「マーケティング」の授業中、男性教授から突然怒鳴られた。教授は、Aさんがノートを取っていたのを居眠りと勘違いしたようだ。Aさんは誤解を解こうとしたが、結局、問答無用で授業を追い出されてしまった。
50人近くが受講しているこの授業では、Aさん以外にも、理不尽な理由で教室を追い出される人が後を絶たないという。「教授の質問に答えられなかった」「ノートをとっていなかった」。その理由はさまざまで、授業はいつもピリピリした雰囲気。学生も萎縮してしまっているそうだ。
教授の仕打ちに納得できないAさんだが、必修科目のためボイコットもできず、日々大きなストレスを感じている。教授の理不尽な締め出しをやめさせるために、どんな手段が考えられるだろうか。また、教授や大学に慰謝料を請求することはできるだろうか。森本明宏弁護士に聞いた。
●学生の「教育を受ける権利」を制限
「まず一般論として、教授には、学生の指導方法や指導内容について、一定の『裁量』が認められています。しかし、これはあくまで、よりよい指導効果を上げるという教育上の配慮に基づく裁量です。
したがって、教授が教育上の上下関係を利用して、学生に対して行った言動が、教育上の裁量を逸脱・濫用している場合には、民法709条の不法行為に該当します。
いわゆる『アカデミック・ハラスメント(アカハラ)』と呼ばれるものですね」
今回の教授の行為は、裁量の逸脱・濫用になるだろうか。
「今回の事案では、居眠りと勘違いした教授が、問答無用で学生を教室から追い出したという話ですね。他にも、理不尽な理由で教室から追い出される学生が後を絶たないとのことです。
学生を教室から追い出すということは、学生の教育を受ける権利を制限することにつながります。そこで、いくら教授でも、教室から学生を追い出すためには、正当な理由が必要です。
たとえば、他の学生に迷惑をかけていたため、追い出さなければ授業に支障が出るといった理由ですね」
今回、Aさんはおとなしくノートを取っていただけのようだが・・・。
「そうですね。迷惑をかけていないとしたら、教授の行為は、教育上の裁量を逸脱しており、アカハラと認定される可能性が高いでしょうね」
●学内の「ハラスメント窓口」に相談を
Aさんは今後、どうすればよいだろうか。
「教授の行為をやめさせるためには、学内に設置されたハラスメント相談窓口に相談をするべきです。同じような行為を受けた学生が多数いるようですから、他の学生とともに、複数で相談に行くのが望ましいでしょう」
窓口に行く際に、準備しておいた方が良いことはあるだろうか。
「そのまま相談に行ってもいいですが、実態を正確に把握してもらうために、教授とのやり取りを録音しておくことも考えたほうがいいですね。
損害賠償については、Aさんは、教授に対しては民法709条(不法行為)、大学に対しては民法715条(使用者責任)に基づいて、慰謝料などを請求可能です」
森本弁護士はこのように指摘していた。今回のように横暴な授業運営は、どんなに偉い先生であっても許されないのだ。