1回500円。3匹釣れたら1匹あげます――。7月中旬、大阪市で行われた4日間の夏祭りに「ハムスター釣り」の露店が現れ、ネット上で「動物虐待にあたるのではないか」と物議をかもしている。
報道によると、ワラを敷いた容器にハムスターを入れ、客がコーンなどのエサがついた糸を垂らして、食いついたハムスターを素早く釣り上げる仕組み。料金は1回500円で、3匹釣れれば1匹もらえるルールだったという。この露店は動物を販売するために必要な登録をしておらず、夏祭りの3日目に調査に入った大阪市の要請に応じて撤退した。
今回の騒動はネットで話題になり、「かわいそうだ」と批判の声があがった。一方で、「金魚すくいと何が違うんだ」と疑問視する意見もあった。ハムスター釣りは、動物虐待にあたるのだろうか。ペット法学会事務局次長をつとめる渋谷寛弁護士に聞いた。
●ハムスターと金魚は扱いが異なる
「ハムスター釣りは、広い意味では虐待にあたると思います。ただし、動物愛護管理法の『動物虐待罪(44条)』は成立しないでしょう」
それはなぜだろうか。
「動物虐待罪の対象動物には、『人が占有する哺乳類』が含まれていますので、この点では、ハムスター釣りも、この罪の対象にあたります。しかし怪我などをしていなければ、虐待の程度が軽く、犯罪は成立しないでしょう。
金魚釣りについても、広い意味では、動物虐待の可能性があります。ただ、ハムスターと異なり、動物愛護管理法の虐待罪では、魚類である金魚には適用がありません。ですから、ハムスターと金魚では扱いが異なります」
では、露天商は法的責任を問われないのだろうか。
「いえ、露天商側は、動物愛護管理法の『無登録営業の罪(46条)』には問われるでしょう」
●ハムスター釣りは、動物愛護の理念に反する
しかし、ハムスター釣り自体が犯罪ではないのであれば、今後も露店が出てくる可能性があるのではないだろうか。
「動物愛護管理法の理念から考えると、虐待罪にあたらない場合でも、好ましいことではありません。ハムスターは、多少の痛みやストレスを感じる上、釣り上げた高さによっては、落ちたときに怪我をすることも考えられます。
そして、動物を販売するときには、その動物の習性や飼い方を詳しく説明する必要があります。お祭りの場で、こうした十分な説明が行われているとは考えられません」
釣り上げていった客が習性を知らないと、どんな問題が起こるだろうか。
「仮に、1人の客が2匹以上持ち帰ったとすると、オス・メスであれば、繁殖します。頭数が多くなりすぎて面倒が見切れない、狭いところに押し込めるなどのいわゆる『多頭飼育』の問題が生じる心配があります。
また、ハムスターの寿命は約2年とされているところ、客が後日あきて、『飼育放棄』してしまうかもしれません」
●売れ残ったハムスターはどうなるのか
たしかに、金魚すくいの金魚ですら、寿命が尽きるまで、きちんと育て続けることができた人は多くないだろう。ハムスターならば、なおさら飼育が難しそうだ。
「はい。ハムスター用の檻や餌、餌用の器、水飲み用の容器などをそろえると、1万円前後の費用が必要です。ハムスター釣りの客が、ハムスターが快適に過ごせる環境を設けることまで考えて釣り上げているとは、とても思えません。
ハムスターに親身になれる人であれば、かわいそうに思い、そもそも釣らないでしょう。釣り上げる人たちは、そのような配慮に欠ける人たちです」
では、露天商側の問題点は、どんなところだろうか。
「露天商は、お祭りで販売する目的で、大量のハムスターを仕入れたと思われます。しかし、お祭りシーズンがすぎて売れ残ったとき、その後、どうするつもりだったのでしょうか。次のシーズンまで餌を与えながら飼育するつもりだったのでしょうか。気になります」
すでに釣られていったハムスターたちの安全を、願わずにはいられない。