なぜ「浄水プラント販売業者」は美濃加茂市長に「金を渡した」と供述したのか?
保釈されたあと、記者会見にのぞんだ藤井浩人・美濃加茂市長

なぜ「浄水プラント販売業者」は美濃加茂市長に「金を渡した」と供述したのか?

「当然、厳しい意見をもった市民もいる」「本当に大丈夫なのかと思われている市民は大勢いらっしゃると思う」

受託収賄などの疑いで逮捕されてから約2カ月。ようやく保釈が認められ、公務に復帰した岐阜県美濃加茂市の藤井浩人市長は、慎重に言葉を選びながら記者の質問に答えていった。背広の胸元には、拘置所を出たときにはなかった市長バッジがついている。

「自分のおごりや、慢心もあったかもしれない」

反省の言葉を織り交ぜながら、語気を強めて主張したのは「現金の授受は一切ない」という身の潔白と、「ハナタレ小僧に投票した市民は何を考えていたんだ」「早くしゃべらないと美濃加茂市を焼け野原にするぞ」とまで言われたという理不尽な警察の取り調べ、そして藤井市長に現金を渡したと供述している贈賄側業者に対する怒りだ。

「なぜ嘘の証言をしたのか。強い憤りを感じる」

●藤井市長と贈賄側業者の接点となった「浄水プラント」

藤井市長逮捕の決め手となった証言をした贈賄側業者とは、名古屋市の浄水設備販売会社「水源」の中林正善社長(贈賄罪などで起訴)。今回の事件は、この中林社長による別の詐欺事件が発端だった。

5年前、多額の借金を抱えたまま会社を設立した中林社長は、地下水供給設備などを各地の自治体や病院に売り込んでいた。しかし、なかなか受注ができないまま、金融機関から融資された借金を別の借金で穴埋めする自転車操業を繰り返し、計10行から総額4億円以上の融資を受けたという。

2011年の東日本大震災後は、京都府の業者が特許を持つ「ろ過装置」を取り入れたプールの浄水プラントを「災害時の飲料水を確保できる」設備だとして売り込みに回った。京都の業者は「初めは名古屋でやると言い、国会議員にも働き掛けて全国の小中学校に導入させるとまで言っていた」と振り返る。

しかし、中林社長はその裏で、他人の印鑑や書類を偽造するなどして、銀行からさらに融資を受けたり、自治体への営業を強めたりしていた。

そして昨年2月ごろ、名古屋市内の知人を介して売り込みを図ったのが、当時は美濃加茂市議だった藤井市長だ。

藤井市議(当時)は「災害の多い美濃加茂市の役に立つ」と考えて、市に浄水プラントの導入をすすめ、市議会でも関連の答弁をした。昨年6月の市長当選後は、母校の中学校のプールにプラントを取り付けさせ、無償の実証実験を推し進めた。

この年の夏ごろから、愛知県警は中林社長のメーンバンクに捜索に入り、藤井市長のほか、名古屋市に事業をすすめた名古屋市議らへの金の流れを調べ始めていた。そして、今年2月、名古屋市内の銀行から融資金1000万円をだまし取った詐欺の疑いで中林社長を逮捕したのだ。

●裁判の争点は「現金授受の有無」

勾留された中林社長は、藤井市長や名古屋市議のほか、愛知県選出の国会議員2人の名前も挙げ、金を配っていたと供述し始めた。警察側が色めき立ったのは想像に難くない。

ところが、結果的に逮捕に至ったのは、藤井市長のみだった。その金の流れも、藤井市長と中林社長がファミリーレストランなどで会食した日、中林社長が2回に分けて30万円を引き出していたという銀行の記録と、「現金入りの封筒を資料に混ぜて渡した」などという中林社長の供述が、検察側の立証の柱のようだ。

これに対して藤井市長は「現金は一切もらっていない」、2回の会食に同席していた共通の知人も「受け渡しの現場は見ていない」などと話し、真っ向から対立する。この現金授受の有無が、今後の裁判で唯一の争点になる見通しだ。

市長側弁護団の郷原信郎弁護士は、中林社長の供述が「警察に誘導されるように変遷しており、まったく信用できない」として、公判では中林社長の供述調書の証拠採用について不同意とする方針だ。しかし、中林社長が嘘の供述をしているとして、その動機は何か。「起訴事実以外にも決定的な弱みを握られていて、警察に都合のよいことを話す一種の司法取引でもあるのではないか」と郷原弁護士は勘ぐる。

「(市長不在だった)空白期間を何倍にもしてお返ししたい」

記者会見で、藤井市長は繰り返しこう決意を述べた。ただ、副市長を含む市職員14人と接触が禁じられるという厳しい保釈条件の下での公務復帰。28日には初公判の日程も決まる見通しで、これから本格的な審理と市長職を掛け持つことになる。裁判ですみやかに、最大限の真実が明らかになることを期待したい。(ジャーナリスト・関口威人)

(弁護士ドットコムニュース)

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