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フリーランスで働く人は「下請法」で守られている――おさえておくべきポイントとは?
口約束での契約は、後々トラブルが発生する場合が少なくない

フリーランスで働く人は「下請法」で守られている――おさえておくべきポイントとは?

予告されていたマンガ連載が2日前に取り消された――。そんな体験をした若手漫画家やまもとありささんに対して、弁護士ドットコムが行ったインタビュー(http://www.bengo4.com/topics/1820/)は、ネット上で大きな反響を呼んだ。

やまもとさんはインタビューで、マンガ業界での契約は「口約束」がほとんどで、「新人の立場だと、どうしても下手に出てしまう」と述べつつ、そうした業界の慣習が「変わってほしい」と話した。この記事に対しツイッターでは、「契約という概念が曖昧なのが信じられない」「業界のいい加減さが酷い」と、マンガ業界の体質を批判する声が多くつぶやかれた。

そんな中、読者からは「漫画家やライターに限らず、フリーランスで働く人は『下請法』で守られているはずだ」という指摘も寄せられた。この下請法とはどんな法律なのだろうか。また、フリーランスで働く人が知っておくべきポイントはなんだろうか。籔内俊輔弁護士に聞いた。

●「口約束」で発注することは違法

「下請法は、正式名称は『下請代金支払遅延等防止法』といいます。朝鮮戦争後の昭和30年代の不況時に、下請事業者に対する代金の支払い遅延が多数発生したことから、下請事業者保護のために作られた法律です」

下請事業者というと、大手メーカーの製品の部品を作る中小企業などが思い浮かぶ。個人事業主として仕事をしているフリーランサーも対象なのだろうか。

「はい。平成15年の下請法改正で、コンピュータープログラムやアニメーション等の作成を依頼するコンテンツビジネスも、『情報成果物作成委託』という類型で、下請法の対象にされました。

マンガ原稿を含めコンテンツを作成する個人事業主のフリーランサーは、資本金額1000万円超の事業者との取引に関して、下請法上の『下請事業者』となります」

下請法が適用されると、フリーランサーにはどういった恩恵があるのだろうか。

「まず、仕事を発注する業者(親事業者)は、下請事業者との取引で、必ず発注書面を出すよう義務付けられています(下請法3条)。『口約束』での発注は違法です」

たしかに、契約書を作ってもらえれば、のちのちトラブルになることも少ないだろう。

「また、発注側の都合で、下請事業者に不利益を与える行為も下請法違反になります。たとえば、発注した成果物を受け取らないという『受領拒否』(下請法4条1項1号)や、納品から60日以内に代金を支払わないという『支払遅延』(4条1項2号)は、下請法で禁じられています。

こうした違反をした親事業者に対しては、公正取引委員会や中小企業庁等から改善が指導されることになります」

●「泣き寝入り」せずに情報提供を

「中小企業庁では、産業分野別にガイドラインを作成しています。たとえば、アニメーション業界や情報サービス・ソフトウェア産業における望ましい取引事例(ベストプラクティス)や、下請法等で問題になる取引事例を紹介しています。親事業者側も積極的に、望ましい取引事例に取引実態を近づけていく努力が必要でしょう。

また、下請事業者向けには、全国に『下請かけこみ寺』という相談窓口も設けられており相談が可能です」

「ただし・・・」と籔内弁護士は留保をつける。「フリーランサーが個人で発注者に対して下請法違反を指摘していくことは、現実的には難しいと思います」

たしかに、仕事を「受注」する側が、「発注」する側に対して、「あなたたちがやっていることは下請法違反だから改善してほしい」と、はっきり告げることは難しいかもしれない。では、どうすればよいのだろうか。

「コンテンツビジネスを展開している親事業者に対して、行政当局が、下請法に関する調査をより一層強化していくことが必要です。そのためには、不利益を受けたフリーランサーが『泣き寝入り』せず、具体的な違反事例について、当局に情報提供することが重要といえます。」

だが、当局への情報提供が発注者にばれて、「下請けいじめ」にあったりしないだろうか。

「その点は安心してください。当局へ情報を提供した下請事業者は、発注者から特定されないように当局は情報管理を徹底しており、保護されます。

そうした情報提供が活発になされることによって、当局の調査・指導が行われて、業界全体の慣行の改善が促されていくことが望まれます」

籔内弁護士はこのように期待を込めていた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

籔内 俊輔
籔内 俊輔(やぶうち しゅんすけ)弁護士 弁護士法人北浜法律事務所東京事務所
2001年神戸大学法学部卒業。02年神戸大学大学院法学政治学研究科前期課程修了。03年弁護士登録。06〜09年公正取引委員会事務総局審査局勤務(独禁法・景表法違反事件等の審査・審判対応業務を担当)。12年弁護士法人北浜法律事務所東京事務所パートナー就任。16〜20年神戸大学大学院法学研究科法曹実務教授。

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