アマゾンの「Kindle」や楽天の「kobo」など、利用者が増えている電子書籍。だが、このほど電子書籍サービスの利用者が、ヒヤッとするような事態があった。ヤマダ電機が電子書籍サービス「ヤマダイーブック」を閉鎖し、新しい電子書籍サービスを始めると、5月末に発表した際のことだ。
「購入済みの電子書籍は読めなくなる。購入済みポイントの新サービスへの移行はない」――。当初の発表内容がこんな内容だったことから、ユーザーからの批判が殺到。同社は「当初の発表が不備だった」として、ポイントを移行させたり、新サービスでも書籍が読めるようにすると発表し直した。このことは、「電子書籍サービスが突然終了」したときに、買った本が読めなくなる可能性を示した。
紙の本ならば、書店や出版社がつぶれても、本が読めなくなることなんてない。もし運営側の都合でサービスが終了し、購入した電子書籍が読めなくなったら、事業者の「法的な責任」を追及できないのだろうか。消費者問題にくわしい高木篤夫弁護士に聞いた。
●電子書籍の「所有権」は誰にある?
「法律上、紙の書籍と電子書籍の性質は、まったく異なります。
たとえば、紙の本を買ったら、その本の『所有権』を得られますよね。購入者の手許に本がある限り物としての本をどう処分しようと勝手なのは所有権があるからです。しかし、電子書籍の場合、『購入』しても『電子書籍の所有権』は得られません。
法律上、所有権は、形のあるもの(有体物)にしか認められていないので、電子書籍のようなデータ(無体物)について、所有権が認められるということはないのです」
●ユーザーは「利用する権利」を買っている
そうなると、「電子書籍を購入した」とき、法的には「どんな権利」が得られるのだろうか?
「『電子書籍を利用する権利』ですね。法的には、電子書籍(著作物)の利用許諾契約を結んだことになります」
業者が勝手にサービスを終了させたら、その権利はどうなるのだろうか?
「それは、サービスを利用し始めたときに同意した、『利用規約』にどう書いてあるかしだいです。利用規約には配信サービスの終了について規定があることがほとんどです。
もし配信業者が、利用規約に反する形でサービスを終了させたのだとしたら、業者に債務不履行責任が生じます。
しかし、配信事業の終了について規約違反がなく、事前にサービス終了の告知を行い、十分な周知期間をおいてサービスの提供を終了させたなら、原則として配信業者は債務不履行責任を負わないでしょう」
業者に法的な責任が発生するかどうかは、「規約にどう書いてあるか」によるところが大きく、もし業者が規約に書かれていることと違う対応をしたなら、責任を問われるというわけだ。
●手元に残ったデータはどうなる?
ところで、電子書籍を買った人に「所有権」がないなら、サービス終了後に手元に保存されているデータは、どういう扱いを受けるのだろうか?
「契約終了後の電子書籍の利用についても、利用規約しだいです。
事業者がサービス終了後の処置について利用規約に規定していれば原則としてそれに従うことになりますし、もし、利用規約にサービス終了後の規定がない場合は、事業者があえて規定しなかったことを考えれば契約終了による不利益は事業者が甘受すべきでしょうから、ユーザーがデータを消去したり、返還したりする義務を負わないと解されるでしょう。
しかし、電子書籍サービスは、定期的にアカウント認証等の手続が必要となるようなものが現実には多く、事実上利用できなくなることのほうが多いと思われますし、事業者から継続利用が保証されているわけでもありません」
高木弁護士はこのように話していた。
「本を買う」という点は一緒でも、電子書籍と紙の書籍では、これほどまでに大きな違いがあるようだ。これからの時代、どんな形で「本」を買うのかは、意外と重大な選択なのかもしれない。