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人気アニメ「タイバニ」特別展で「10時間待ち」――主催者の責任は?
人気スポットにはおびただしい数の人が集まる

人気アニメ「タイバニ」特別展で「10時間待ち」――主催者の責任は?

女性に人気のアニメ「TIGER&BUNNY」(タイバニ)の原画などが見られるアート展で、東京会場での大混乱ぶりが注目を集めた。初日の6月24日、限定販売のオリジナルグッズを目当てにファンが殺到。多くの人が10時間以上も待機するはめになったというのだ。

ツイッターには、「ようやく…ようやく入場です…(;∀;)6時半から並んで10時間20分…やっとだよ……」「そろそろ並び始めてて12時間、入場して2時間経ちますが、ここから物販まで3時間掛かるとアナウンスがありました」など、不満や不安の声が数多く投稿された。

係員の同伴がないとトイレに行けなかったという声もある。並んでいる途中で体調を崩して離脱した人もいたようだ。主催者は来場者を長時間待たせたとして、公式ホームページで謝罪している。このように混雑が予想されるイベントでは、主催者は何らかの配慮をする義務があるのではないだろうか。好川久治弁護士に聞いた。

●ポイントは「受忍限度」を超えたかどうか

「今回の特別展は、有料チケット制の展示会とキャラクターグッズの販売が一緒になったイベントのようです。そこに来場した顧客と主催者との関係は、アニメに関するサービス提供契約が結ばれていると考えることができます。

そうなると、契約の目的に沿ったサービスを提供することが主催者側の義務となります。予定されたサービスの提供ができなければ契約不履行になります。

また、サービスが、この種のイベントで通常期待される方法で提供されない場合も、それが一般に我慢するのがやむを得ないと言える限度(受忍限度)を超えると、やはり不完全履行として、主催者側は責任を負うことになるでしょう」

その「受忍限度を超えた状態」とは、どんな場合だろうか。

「本件と類似の参考になる先例があります。2007年9月末に開催されたF1日本グランプリで、会場内のシャトルバスが大渋滞しました。観客たちは、真っ暗な雨のなかを、トイレも飲食もできず長時間のバス待ちを強いられました。その観客が主催者側を訴えた事件です。

裁判所は、『大規模イベントの主催者として調査、管理を怠った』として、バスの待ち時間3時間を超えた原告に対し、受忍限度を超える不利益を与えたとして主催者側に損害賠償を命じました(東京地裁平成25年1月24日判決)」

●今回も受忍限度を超えていた可能性あり

真っ暗な雨の中・・・ではないが、今回は入場まで10時間待ちだ。

「この種のイベントでは、多数の来場者が会場に列をなして入場待ちをすることが通常ですから、長時間の入場待ちの事実のみをもって、主催者側の責任を問うことは難しいでしょう。

ただ、ネットの書き込みを見ていると、今回のケースは、会場内にはトイレもなく、飲食も禁止。待ち時間が早朝から12時間以上になるという過酷さです。事態は、入場を待つ顧客の通常の想定を遥かに超え、一般に我慢すべき限度を超えていると評価できなくもありません」

さらに、今回のイベントについては、過去に行われた他の会場でも同じような混乱が起きていたという。

「過去に実施したイベントでも同様の混雑が起こり、ファンが主催者側に改善の要望を伝えていたとなると、主催者側も弁解しにくくなりますね。

今回は、顧客からの要望で、途中で飲食が許され、スタッフも増員されるなど環境はいくらか改善されたようです。しかし、もし、主催者側が何ら対策も講じず放置して事故が起こっていたら、責任を問われてもおかしくない事案と言えるでしょう」

イベントにどれほど人が集まるのか、正確に予測し、対処することは簡単ではないだろう。だが、集まってくれたファンを10時間以上も並ばせるぐらいなら、物販を整理券制や抽選制にするなど、何らかの対処ができなかったのだろうか。そんな疑問が残る騒動だった。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

好川 久治
好川 久治(よしかわ ひさじ)弁護士 ヒューマンネットワーク中村総合法律事務所
1969年、奈良県生まれ。2000年に弁護士登録(東京弁護士会)。大手保険会社勤務を経て弁護士に。東京を拠点に活動。家事事件から倒産事件、交通事故、労働問題、企業法務まで幅広く業務をこなす。趣味はモータースポーツ、ギター。

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