「集団的自衛権」をめぐる議論がにわかに活発になっている。これまでの日本政府は、戦争放棄を定めた憲法9条の解釈から「集団的自衛権は行使できない」という立場をとってきたが、安倍内閣は従来の憲法解釈を変更することで、それを可能にしようとしているのだ。
5月15日には、安倍首相の私的諮問機関である「安全保障の法的基盤の再構築に関する法的懇談会」(安保法制懇)が、「集団的自衛権を行使することは許される」という報告書を提出した。これを受けて、安倍首相は憲法解釈の変更に向けて、本格的に動き始めている。
そんな状況に待ったをかけようと、憲法学者や元政府関係者ら12人が5月28日、「国民安保法制懇」を立ち上げた。その結成集会が同日、東京・霞が関の参議院議員会館で開かれ、元内閣法制局長官の阪田雅裕氏や慶応義塾大学名誉教授の小林節氏ら6人が登壇した。
メンバーの一人である伊藤真弁護士によると、安保法制懇の報告書の内容を分析したうえで、「国民に必要な情報を提供しつつ、この夏ごろをめどに報告書にまとめたい」という。
●「おい、こら泥棒!」という印象をもった
国民安保法制懇の結成集会で、元内閣法制局長官の阪田氏は次のように語った。
「我々は反戦運動をしてきたわけでない。護憲の運動をしてきたわけでもない。集団的自衛権の行使の是非について、必ずしも意見が一致しているわけでもない。
現在の政府の憲法9条の解釈についても、メンバー全員が『これが是である』と言っているわけではなくて、批判をしている方もいる。
しかし、一政権の手で、現在の解釈を変更すること、それを許すということは文字通り、立憲主義の否定だ。法治国家の根幹を揺るがすものであるという危機感と怒りのようなものを覚えている点で共通している」
憲法が専門の小林氏も「主権者である国民が憲法をもって、権力者である安倍首相を管理するはずなのに、主客転倒だ。だから、国民の持ち物である憲法が、逆に道具によって支配されるべき安倍さんによって、取り上げられた。表現は良くないけれど、『おい、こら泥棒!』『憲法がハイジャックされている』という印象を持った」と述べた。
●憲法改正の正しいプロセスを踏むべき
阪田氏は「憲法9条は時代遅れかもしれないし、必要な改正はやったらいい」と述べながらも、そのためには「憲法改正の正しいプロセスを踏むべきだ」と強調する。
「集団的自衛権が行使できるようになるか否かは、日本のかたちに関わる非常に大きな問題だ。だからこそ、集団的自衛権の行使を認めるということであれば、十分に国民的な議論を尽くしたうえで、憲法改正によって、しっかりと国民の意見を集約し、同時に国民の覚悟を求めるという手続きが必要だ」
このように説明を加えたうえで、阪田氏は「もし解釈で変えるということができるなら、憲法はなんだということになってしまう。民主主義の破壊だと思う」と警鐘を鳴らしていた。
国民安保法制懇のメンバーは以下のとおり(敬称略)。
阪田雅裕 (元第61代内閣法制局長官)
大森政輔 (元第58代内閣法制局長官)
樋口陽一 (東京大学名誉教授・憲法)
小林節 (慶應義塾大学名誉教授・憲法)
長谷部恭男(早稲田大学教授・憲法)
最上敏樹 (早稲田大学教授・国際法)
柳澤協二 (元防衛省防衛研究所長、元内閣官房副長官補)
孫崎享 (元防衛大学校教授、元外務省情報局長)
伊勢崎賢治(東京外国語大学教授・平和構築/紛争予防)
愛敬浩二 (名古屋大学教授・憲法)
青井未帆 (学習院大学教授・憲法)
伊藤真 (法学館憲法研究所所長、弁護士)