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奨学金返済のため「個撮モデル」になった女性、「NG行為やぶり」のリスクと隣合わせでも「やめるつもりない」
インタビューに応じたモデルの女性(2022年8下旬/東京都/富岡悠希撮影)

奨学金返済のため「個撮モデル」になった女性、「NG行為やぶり」のリスクと隣合わせでも「やめるつもりない」

SNSで撮影者を募り、性的動画の被写体となって、対価を得る女性たちがいる。「個撮(個人撮影)モデル」「SNSモデル」「同人モデル」などと呼ばれる。彼女たちの生の声が語られることは少ないが、8月下旬、20代半ばの女性が取材に応じた。

奨学金返済を抱える彼女にとっては、「ありがたいお金」だと打ち明けた。しかし、撮影者の半数に「NG項目」をやぶられるという危険と隣り合わせだった。(ジャーナリスト・富岡悠希)

●家族の介護のために高校中退、奨学金だけが残る

「収入がさほど多くない父子家庭で育ちました。看護師になりたく、看護学科のある私立高校に通い始めました。しかし、父が倒れ、おばあちゃんも介護が必要になって1年もたずに中退。結局、100数十万円の奨学金が残りました。個撮モデルになったのは、その返済のためです」

東京・錦糸町のファミレスで、筆者にこう語ったのは埼玉県在住のシノブさん(仮名)。マスク上の目が、クリクリと動き愛らしい。初対面の挨拶時からはつらつとしていた彼女は、この重めの話もさらりと語った。

祖母を介護する時間を取らなければならず、どこかに就職する選択肢はなかった。アルバイトでも、長時間は難しい。しかし、奨学金を返済する必要がある。父親は徐々に元気を取り戻したが、過度には頼れなかった。

そのため、10代は登録制の水着モデルとなる。手数料を引かれても、45分で8千円ほどが残った。

●常連の撮影男性から「個撮」を持ちかけられた

20歳になったとき、常連の撮影男性から、個撮を持ちかけられた。水着を脱ぐうえに、彼との絡みもある。迷ったが、3時間で6万円のギャラは魅力的だった。男性との直接交渉になることから、手数料を取られることもない。

顔出しOKのモデルたちもいるが、シノブさんは基本的にはNG。ただし、目隠し(アイマスク)は許可することもある。このほか、無理強い行為や手足の拘束もダメとしている。

「事前にNG項目もすり合わせられたし、撮影内容の確認もできました。何とか初撮影は、無事に終わりました。高いギャラは、やっぱりありがたかったです」

かつて、個撮の制作者から即金で払うモデル代が「セーフティーネット的に使われている」という意見を聞いたことがある。シノブさんの言葉は、この発言と響きあう要素があった。

●撮影者の半分は「NG行為やぶり」をしてきた

初撮影以降、ツイッターのアカウントを作った。「#個人撮影」「#フェチモデル」「#フリーモデル」とハッシュタグをつけたプロフィールを用意。撮影者には身分証の提示も求めた。

撮影場所は自宅からアクセスが楽な、上野や鶯谷とした。拘束時間は、3時間程度までとしている。

この数年間で撮影に応じたのは、15人程度。撮影者の年齢は25歳から68歳までと幅広い。残念ながら、つつがなく撮影が終わったのは半分ほど。残る半分は「NG項目やぶり」をしてきた。

シノブさんは、個撮モデルを始めた当初、視野を確保できるレース状のアイマスクの存在を知らなかった。あるとき、相手の求めに応じて、完全に見えなくなるアイマスクを使った。

すると、その撮影者はプレイの最中に、こっそりNG行為を働いたという。途中で異変に気づき、「やめて下さい」と伝えたが、聞いてもらえなかった。

シノブさんは、かなり小柄。ラブホテルなどの密室で1対1で会っている男性に、強く出ることは叶わない。結局、泣き寝入りすることになった。

●「返済メドが立つまでは、個撮モデルをやめるつもりはない」

事前に丁寧なやり取りをするように心がけているが、ドタキャンする撮影者もいる。また、実際に会えても、「イメージと違った」と文句を言われることも。

こうしたリスク・トラブル・ストレスが付きまとうが、今日もツイッターのアカウントでは撮影者を募っている。

「奨学金返済のメドが立つまでは、個撮モデルをやめるつもりはないです」

数年前、奨学金の返済について、行政に相談に行ったことがあった。何らかの支援やアドバイスを期待していたが、「何もできないと言われました」。以後、「自分でどうにかする」と覚悟を決めた。

祖母の介護で高校を中退したシノブさんは、いわゆる「ヤングケアラー」にあたる。取材中、筆者がそう向けると、朗らかだった話し方が、このときだけは少し変わった。

「そうですけど、言われることには引っ掛かります。私が高校生のときにはなかった言葉ですし。どうしても今の子たちに『甘え』がないのかと、思っちゃいますね」

たしかに「ヤングケアラー」に注目が集まったのは最近のこと。シノブさんは、その前から、ずっと祖母の介護を黙って担ってきた。

いわゆる「自己責任論」が、若い世代に根付いているとされる。良い悪いはさておき、シノブさんのこの発言にも垣間見えた。

●コロナ禍以降、居酒屋バイトをクビになった

取材の最後、今、望むことを聞いた。すると、一言、「コロナの収束ですね」。

明るく、コミュニケーション能力が高い彼女は、コロナ禍以前は居酒屋でバイトをしていた。時給が良く、シフトの自由があり、夕方から夜の勤務なのも助かった。

しかし、緊急事態宣言が出されるなどしたことから、あえなくクビとなる。現在、派遣会社に登録しているが、なかなか希望の仕事が回ってこない。

「個撮モデルで臨時収入を得つつ、バイトで稼いで、介護もする。それらをちゃんと、やっていくだけですね」

●ファミレスチェーンを一家で利用することが楽しみ

この日の取材は、午前10時から。取材対応の御礼に、「何か食べて」と声をかけた。朝食がまだだったシノブさんは、モーニングセットを注文。筆者は済ませてきたことから、ドリンクバーにすることにした。

お店は最近、増えてきたタッチパネルによるセルフオーダー式。扱いなれない筆者がモタモタしていると、彼女が代わりにチャチャッと注文した。

慣れているのには理由がある。このファミレスチェーンを一家で利用することが、彼女の楽しみになっているという。

「車いすのおばあちゃんでも、入りやすいんですよ。あと、値段も高くなくて、とてもおいしいですし」

こう語ったときのシノブさんが、この日の取材で一番穏和な表情になった。

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