1500人がスマートフォン(スマホ)を見ながら、渋谷のスクランブル交差点を横断したらどうなるか――。NTTドコモがそんな想定で作ったシミュレーションのCG動画が話題だ。Youtubeで公開された動画は、220万回以上も再生されている(5月4日現在)。
スマホを使いながら歩く「歩きスマホ」をする際は、普通に歩くときと比べて視野が20分の1になり、歩く速さも7割程度になる。愛知工科大学の小塚一宏教授による、そんな研究データに基づいて計算したところ、他人にぶつかったり、転んだりする人が続出。青信号の46秒間で交差点を無事横断できたのは、1500人中わずか547人だったという。
実際に、都心では「歩きスマホ」をしている人をよく見かけるし、駅ホームでの転落事故も報告されている。いまのところモラルの問題とされているが、そろそろ「歩きスマホ」を法律で禁止する必要はないのだろうか。齋藤裕弁護士に聞いた。
●歩きスマホ禁止は「通信の自由」を侵害する?
「『歩きスマホ』により、駅ホームからの転落など重大事故が発生しています。ですから、『歩きスマホ』を法律で禁止する必要が一応あるとは言えるでしょう」
齋藤弁護士はこのように話す。「一応ある」というのはハッキリしない言い方だが、法律で禁止したら、何か問題があるのだろうか?
「問題は、禁止することにより、過剰に人権が制約されるのではないかということです」
具体的には、どういった人権が制約されるおそれがあるのだろう?
「たとえば、『スマホを使って通信をする自由』ですね。もっとも、ニュースを見たりすることは、歩いていないときにすればよいので、歩きスマホを禁止をしても、通信をする自由の侵害にはならないと思います。
スマホの地図アプリも、歩きながら見たほうが利便性が高いでしょうが、立ち止まって地図を見てもよいわけで、どうしても歩きスマホで地図を見なければいけない必要性が高いとは思われません。
ですから、規制をすること自体は、許されると思います」
●利便性に対する配慮も必要
そうなると、「歩きスマホ禁止」もありえる?
「そうですね。しかし、次の論点として、『どんな方法で規制するか』という問題があります。
たとえば、駅のプラットホームなど、混雑していて、前をよく見て歩かないと危険な場所に限って禁止するという方法が考えられるでしょう。利便性に対する配慮も必要ですから。
また、刑罰で歩きスマホを禁止するとしても、いきなり懲役刑を定めるのではなく、まずは罰金程度にとどめるべきだと考えます。歩きスマホで衝突や転倒などの事故が起こりうるといっても、自動車の運転ほど他人を傷つける可能性が高いわけではありませんからね」
このように齋藤弁護士は話しているが、街のなかを歩いているときの行動を法律で規制されるというのも、なんだか窮屈な気がする。人が多い場所では「歩きスマホ」を控えるなど、個人の自主的な行動によってトラブルを避けられれば、それにこしたことはないのだが・・・