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「いじめ加害者は強制的に転校させるべき」弁護士が法改正を提言 旭川中2女子死亡事件
画像はイメージです(Graphs / PIXTA)

「いじめ加害者は強制的に転校させるべき」弁護士が法改正を提言 旭川中2女子死亡事件

中学2年の女子生徒が2021年3月、旭川市内の公園で死亡して見つかったことについて、旭川市教育委員会は4月27日、いじめにより生命・心身・財産に重大な被害が生じた疑いがある「重大事態」と認定した。市教育委員会に常設されている第三者で構成される委員会が、5月から本格的に調査する。

この問題については、文春オンライン(4月15日)が、「背景にはいじめがあった」と報じたことを受け、西川将人市長があらためて調査するよう指示していた。

市教育委員会の担当者は、弁護士ドットコムニュースの取材に対し、トラブル自体は当時から把握していたものの、「いじめとしては認知していなかった」ため、報道以前の段階では、再調査等の予定も「特になかった」と回答した。

「いじめに関する相談があったかどうかの事実確認も含め、調査をおこなう予定」(市教育委員会)のようだが、対応が後手に回っている感は否めない。トラブル当時の対応や判断に問題はなかったのだろうか。高島惇弁護士に聞いた。

●組織内で本当に意思疎通できていたのかどうかが焦点

——報道を受けて市長が動き、そして市教育委員会も動き出しましたが、報道されるまでは「いじめとしては認知していなかった」ようです。

本件は、マスメディアによる報道が先行しており、現時点でいじめの事実関係が正確には把握できていないため、その前提で説明します。

まず、市教育委員会の対応について、旭川市長は「(文春オンラインの)記事を読むまで、私も教育委員会も事実関係についてまったく違う認識をしていた。もしかしたら私たちが事実誤認をしていたかもしれないという視点から、しっかり調査をする必要がある」と発言していたようです。

すると、当時の学校、とりわけ担任がどのようにいじめの被害を認識し、校長、さらには教育委員会へ報告していたかが重要になってきます。

その一方で、少なくとも「わいせつ画像の拡散は、校内で起きたことではないので、当校としてはイジメとは認識していない」と担任が発言したとされる件については、一定の人的関係にある限り、学校外で起きたトラブルもいじめに該当し得るため、法律論としては明確に誤っていると評価できます。

また、被害生徒は転校後に入通院を繰り返していたとの話であって、遅くともその時点で身体への深刻な被害から「重大事態」と認定することは可能であるため、その意味で対応が後手に回っているとの批判は避けられないかもしれません。

——いじめ防止対策推進法上の「重大事態」に当たると判断されました。第三者委員会による調査がおこなわれますが、どのような調査なのでしょうか。

重大事態における調査については、一般に、弁護士や大学教授、精神科医といった委員が選定されて第三者委員会が立ち上げられ、加害生徒や学校への聴き取り、アンケートの実施といった調査を行った上で、最終的に調査報告書を作成します。

ですが、捜査機関とは異なり、第三者委員会の調査には強制力がないため、仮に加害生徒やクラスメイトなどの関係者が聴き取りに応じなかった場合には、その段階で調査が行き詰ってしまうおそれがあります。

実際、今回のケースでは、加害生徒の一部がすでに中学校を卒業しているとのことで、学校からの呼び出しに応じない可能性も十分考えられる以上、今後の調査が大きく難航することは予想されます。

その観点からも、早期に第三者委員会を立ち上げなかった市教育委員会の対応には、やはり問題があったものと思わざるを得ません。

●「加害児童を強制転校できるよう、法改正検討すべき」

——今後の経過はどうなるのでしょうか。

仮に当時の担任がいじめ被害を隠ぺいして管理職へ報告していなかった場合には、当然懲戒処分の対象となりますし、校長の管理責任も問われる可能性があります。

また、調査報告書の内容次第では、加害生徒又はその保護者に対し損害賠償責任を追及できる余地があります。

その一方で、第三者委員会は飽くまで公正中立な立場から調査を進めなければならないため、世論が過熱していじめの真偽を問わず全て認定するよう第三者委員会に迫る展開になるのは、決して望ましくありません。

そのため、いじめ行為時からだいぶ年月が経過している状況ではあるものの、まずは第三者委員会が適切に調査を進められるよう、冷静に見守るのが大切な姿勢かもしれません。

——いじめは依然として後を絶ちません。未然防止も重要ですが、事後の対応としてどうあるべきなのでしょうか。

公立の小中学校においては、加害児童等への退学処分を下すことが法律上許されないため、いじめの被害にもかかわらず加害児童等と同じ学校へ引き続き通学することを余儀なくされます。

そのため、被害児童等が負担感からやむを得ず転校するケースは少なくありませんし、実際今回の被害生徒も2019年9月頃に転校されているようです。

これは、被害児童等への対応としてバランスを欠いていますし、とりわけ加害児童等の非行が進んでいていじめの再発が容易に予想できる場合には、安全の確保という観点からもリスクが生じています。

そこで、いじめ被害が深刻で改善の見込みが乏しいなど一定の要件を満たす場合には、加害児童等につき強制力を持って指定校変更を義務づけられるよう、法改正する必要があるものと個人的に理解しています。

プロフィール

高島 惇
高島 惇(たかしま あつし)弁護士 法律事務所アルシエン
学校案件や児童相談所案件といった、子どもの権利を巡る紛争について全国的に対応しており、メディアや講演などを通じて学校などが抱えている問題点を周知する活動も行っている。近著として、「いじめ事件の弁護士実務―弁護活動で外せないポイントと留意点」(第一法規)。

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