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夫の「趣味グッズ」を勝手に捨てたらダメ? 生活費を払わないケチ夫に妻が制裁
画像はイメージです(よっちゃん必撮仕事人 / PIXTA)

夫の「趣味グッズ」を勝手に捨てたらダメ? 生活費を払わないケチ夫に妻が制裁

趣味のグッズが妻に売り飛ばされ、なんとか買い直させたいと友人から相談を受けた。ネット上の掲示板に、そんな書き込みが投稿されました。

投稿者が、友人の妻に、なぜグッズを売り飛ばしたのか聞くと、「生活費1円も払わんから売りとばして生活費に充てた」。かたや友人は、「嫁ちゃんの方が給料高いしそれで十分やっていけるんだから僕が払う必要ないでしょ」と自信満々に答えたそうです。

しかし、話を聞けば聞くほど、友人がいかに今まで生活費を支払ってこなかったのかが明らかになってきました。趣味のグッズにはお金を使う一方、月々の住宅ローン、光熱費、食費にいたるまで、友人は1円も支払っていなかったというのです。

今回のように、夫が生活費を1円も支払わないという場合に、夫の持ち物を勝手に売って生活費を捻出することは、法的に問題があるのでしょうか。また、夫は妻に対して、売り飛ばしたグッズを買い直せと要求しているようですが、応じる必要はあるのでしょうか。甲本 晃啓弁護士の解説をお届けします。

Q. 夫の持ち物を勝手に売ることは犯罪?

夫はその収入に応じて生活費を共同して負担する義務があります(民法760条)。支払わない場合には妻から請求することができ、家庭裁判所の調停も利用できます。しかし、生活費を支払わないからといって、裁判所の手続きを介さずに、夫の所有物を勝手に売ることは、「自力救済」として法律上禁止されています。

夫の趣味のグッズは、夫個人の所有物です。結婚以前から持っていた物と、結婚してから夫が自己の名義で取得した物は、夫の所有物(民法786条1項)ですから、グッズもこれにあたるでしょう。

ちなみに、夫婦どちらのものと決めずに購入した物は「共有」と考えられます(同条2項)。たとえば、食料品や家具、家電など、家族で使う生活用品ですね。

夫の所有物を勝手に売った妻の行為は、刑法上は窃盗罪または横領罪(刑法235条・242条)に該当する行為とも評価できます。ただし、刑法には親族相盗例(刑法244条1項)という規定があり、被害者が夫や直系血族(祖父母、両親、子ども、孫など)、同居の親族の場合は、刑が免除されます。そのため、妻が処罰を受ける可能性はありません。

Q. 妻がグッズを買い直す必要はある?

今回の相談で、夫は妻に対して、売り飛ばしたグッズを買い直せと要求しているようです。

結論から言えば、妻にはグッズを買い直す義務はありません。ただし、妻は、グッズを無断で売ってしまったのですから、これは不法行為(民法709条)にあたります。よって、夫は、妻に対して、不法行為に基づく損害賠償として、売られてしまったグッズの時価相当額の金銭の支払を求めることができます。

もっとも、妻は、もともと夫に対して生活費の支払いを請求できるのですから、払うべき損害賠償から貰うべき生活費を差し引き計算すれば(これを相殺といいます)、実際には払わずに済むのではないか、とも思われます。

しかし、法律上は、不法行為をした妻からの一方的な相殺が禁止されています(民法509条)ので、いったんは妻が、売り飛ばしたグッズの時価相当額を全額支払わざるを得ないでしょう。

(弁護士ドットコムライフ)

プロフィール

甲本 晃啓
甲本 晃啓(こうもと あきひろ)弁護士 甲本・佐藤法律会計事務所
理系出身の弁護士・弁理士。東京大学大学院修了。丸の内に本部をおく「甲本・佐藤法律会計事務所」「伊藤・甲本国際商標特許事務所」の共同代表。専門は知的財産法で、著作権と特許・商標に明るい。鉄道に造詣が深く、関東の駅百選に選ばれた「根府川」駅近くに特許事務所の小田原オフィスを開設した。

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