長野県の建設業者でつくる厚生年金基金から、総額24億円に及ぶ巨額の使途不明金が出ている事件。報道によると、横領の疑いで逮捕された元事務局長は、少なくとも約10億円の横領を認め、「金は女性につぎこんだ」と話しているという。
元事務局長は、不法滞在容疑でタイで拘束された際、大使館職員に「複数の交際女性に多額の現金や、高級腕時計を贈った」と語ったとも報じられている。毎月の給与からこつこつと掛け金を支払っていた側からすれば、到底見過ごすことはできない話だ。
着服した金を異性に貢いでしまうという話は、今回の件に限らず、他にも耳にする。もし、横領された金が愛人に渡っていた場合、被害者はその愛人から金を取り戻すことができるのだろうか。大山滋郎弁護士に聞いた。
●愛人がどの程度かかわっていたかで結論が変わる
「横領された側からすると、確かにたまったものじゃないですね。何とか取り戻したいという気持ちはよく分かります。
しかし実際には、横領したお金を貢いでもらった愛人から取り戻すのは、相当難しいでしょう。お金を直接取った人から取り返すのと違い、『第三者』からお金を取り戻すことは、法律的にも実際問題としても、単純にはいかないのです」
大山弁護士はこのように説明する。取り戻せるかどうかは、どんな点がポイントとなるのだろうか。
「法律的にお金を取り戻すことができるかどうかは、愛人が横領事件とどの程度かかわっていたかによって、答えが違ってきます。
まず、愛人が横領をそそのかしていたり、横領を助けていたような場合、これは愛人も横領の『共犯』です。当然、愛人は刑事処罰もうけるでしょうし、民事上も横領金額を返還する義務があります」
基本的には、横領事件に関与している度合いが大きいほど、お金を取り戻せる可能性が高まると考えられるということだ。共犯は最大級に関与していると言えるだろう。
●愛人が「横領の金」と知っていたら、返還義務があるが・・・
「次に、愛人が、共犯ではないにせよ、貢がれているお金が、横領されたお金だと知っていた場合です。この場合にも、愛人にはお金を返還する義務があります。
ただ、愛人のほうも、『私は、あの人が横領したお金で私に貢いでいると知っていました』なんて、簡単に言うわけがありません。
事実上、この点についての証拠を集めることは、かなり難しいと言えるでしょう」
つまり、法律的には、愛人が「横領されたお金」と知りながら受け取っていたと証明できれば、お金を取り戻せる可能性はある。しかし、それを証明するのは、実際問題としてはかなり困難だということだ。大山弁護士は続けてこう述べる。
「一番判断が難しいのは、『常識で考えて、その人が持っているはずのない金額』を貢がれていたような場合でしょう。『誰が考えたって、おかしい。変なことをして手に入れたお金だと知らないなんてありえないじゃないか』というときですね。
こういう際にも、横領されたお金が愛人に渡った証拠や、愛人が犯罪について知っていたはずだと言えるような証拠を十分に固められれば、返還が認められる可能性はあります。
ただ、そうした証拠集めは、もし成功したとしても、多大な費用や労力がかかります。もとが余程の大金でないと、いざ裁判を起こしても費用倒れになる可能性が高そうです」
どうやら、このあたりがギリギリ、であるようだ。なお、愛人が横領について、全く知るよしもなかったという場合は取り戻すのが難しい、とのことだった。