国際宇宙ステーション(ISS)に滞在していたアメリカの宇宙飛行士の女性が、離婚訴訟中の同性パートナーの銀行口座に不正アクセスした疑いが持たれていると報じられています。現在、米航空宇宙局(NASA)が調査中で、宇宙空間で初めて起きた犯罪の可能性があるそうです。
報道によりますと、2018年12月から今年6月までの約半年間、ISSに滞在していたアン・マクレイン飛行士が、国際宇宙ステーションからパートナーの銀行口座に不正アクセスした疑いがかけられています。
パートナーが、自身の銀行口座に不審なアクセスがあったことに気づき、NASA経由だったことから発覚したそうです。マクレイン飛行士とパートナーは離婚調停中で、背景には、子どもの親権などをめぐる争いがあったとみられています。
NASAは「ISSにおいて最初の犯罪」とコメントしているようです。では、ISSのような宇宙空間における犯罪は、どのような刑事手続きがとられるのでしょうか。宇宙法にくわしい作花知志弁護士に聞きました。
●国際宇宙基地協力協定が結ばれている
ISSは、日本やアメリカ、ロシア、ヨーロッパなど、世界各国が参加しています。どの国の法律が適用されるのでしょうか。
「ISSに参加している日本、アメリカ、ヨーロッパなどの国々の間では、宇宙空間で刑事事件が発生した場合、その容疑者の国の法律に基づいて対応するなどの取り決め(国際宇宙基地協力協定)がされています。
したがって、今回の事件では、宇宙飛行士の国籍国であるアメリカの法律(刑法や刑事訴訟法など)で裁かれることになります」
今回はアメリカの飛行士がアメリカ(地上)のパートナーに対する加害とみられていますが、複数の国の飛行士が関係する犯罪だった場合はどうなるのでしょうか。
「先ほどの取り決めに基づいて解決しようとすれば、たとえばヨーロッパの複数の国(A国とB国)の宇宙飛行士(A国のXさんとB国のYさん)が共同して犯罪をおこなった場合、XさんはA国の法律で、YさんはB国の法律で、それぞれ裁かれることになります。
そうなると、共同の犯罪行為なのに、A国の法律で裁かれた結果と、B国の法律で裁かれた結果に大きな違いが生まれる可能性もあります。そのような事態を避けるために、本当は、国際条約に基づいて、宇宙で犯罪をおこなった宇宙飛行士を裁く『国際宇宙刑事裁判所』を設立することが必要なのかもしれません。
今は宇宙空間に行く人は非常に少数ですが、今後、宇宙旅行が活発になると、世界中のさまざまな国籍を有する人々が宇宙空間を旅行している際に犯罪がおこなわれる可能性が出てきます。
そのような場合には、ISSの取り決めは適用されません。宇宙犯罪を国際法に基づいて設立された裁判所が、国際法に基づいて裁く『国際宇宙刑事裁判所』の設立をおこなうことが、より強く求められるようになるかもしれませんね。
ちなみに、私の事務所のホームページには『宇宙法・宇宙旅行』の頁を設けています。いつか、もしこの記事をお読みいただいている方が、宇宙法や宇宙旅行についてトラブルに巻き込まれることがありましたら、ご相談にいらしていただければと思います」