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年間17万匹の犬猫殺処分を減らせるか――「動物愛護管理法」改正で何が変わる?
改正動物愛護管理法はことし9月から施行されている

年間17万匹の犬猫殺処分を減らせるか――「動物愛護管理法」改正で何が変わる?

生後まもない子犬や子猫の販売を規制する改正動物愛護管理法が9月から施行されている。今回の改正のポイントは、繁殖業者に対して、生後56日(8週齢)を経過していない子犬や子猫の販売と展示、引き渡しを禁止したことだ。

経過措置として、施行後3年間は生後45日までの犬猫とされているが、5年以内に生後56日への変更を行うとしている。また、飼い主についても、犬や猫を最期まで飼育する責務を規定。飼い主がペットの高齢化や病気を理由にして、保健所などに引き取りを求めても、拒否できることなどを定めた。

今回の法改正に対して、ネットではペット愛好家らから「大きな一歩だ」などと好意的な声が出ているが、なぜ新たな規制が導入されたのか。また、日本のペット社会において、どんな意義があるのだろうか。動物愛護問題にくわしい植田勝博弁護士に聞いた。

●幼いときに親兄弟から引き離すと、吠え癖や噛み癖が生じやすい

「犬猫等販売業者の幼齢販売については、動物愛護団体等から、幼齢の犬や猫を早い段階で親兄弟から引き離すと、吠え癖や噛み癖などが生じやすくなり、飼い主の飼育放棄にもつながるおそれがあるいう意見が数多くありました」

植田弁護士は法改正の背景をこう説明する。そこで、8週齢(56日)の子犬と子猫の販売などを禁止する法改正がされたわけだが、すぐに8週齢規制がスタートしたわけではない。

「科学的根拠が不明瞭という指摘と営業上の事業者からの反対を受けて、附則によって、法施行後3年間は45日、3年後の翌日から別に法律で定める日までは49日(7週齢)とされました。56日(8週齢)は、再度、法律で定めることとされています。

つまり、8週齢規制を実施するには、再度、法律で定めることがが必要とされるため、『改正法は意味がない』との声もあります。しかし、8週齢規制はこの法律の本則(22条の5)で定められており、あとは実現する『時期』の問題ですので、その点では意味があるともいえます」

●飼い主の「終生飼養義務」とはなにか?

さらに、改正法では、飼い主が犬や猫を最期まで飼育する責務を定めた。また、飼い主がペットの高齢化や病気を理由にして、保健所などに引き取りを求めても、拒否できることなどを定めている。

「飼い主が犬や猫を最期まで飼育する責務を『終生飼養義務』と言います。改正法ではこのほか、感染性疾病や逸走の予防義務、乱繁殖の禁止が定められました。また、動物の殺傷や虐待、遺棄については、従来から罰則がありましたが、その刑罰が重くなりました」

さらに、今回の改正法のポイントとしてあげられるのが、行政の引き取り義務が制限されたことだ。

「これまで飼い主が捨てた犬や猫は、ゴミとして行政が回収し、殺処分して焼却してきました。1998年ころまで、行政が引取った犬猫殺処分数は年間60万頭以上にのぼっていました。これに対して、日本の残酷な社会現象として、動物愛護団体や諸外国の批判があり、1999年には旧動物管理法から『動物愛護管理法』に名称が変わるなど、法律の整備が進められました。

しかし、犬や猫の殺処分は続いています。2011年の殺処分は、犬4万4000頭、猫13万1000頭と従来よりも減ってきていますが、あわせて年間17万頭というのは、膨大な数です」

そんななか、改正法で、行政の引取義務を制限されることになった。植田弁護士は「動物愛護へ向けた大きな改正」と評価する。

「犬猫等販売業者からの引取りや飼い主の終生飼養義務に反するときなどの場合は、行政が引き取りを拒否できることとなりました。また、国会の付帯決議として、『殺処分頭数をゼロに近付けることを目指して最大限尽力する』との決議がされました」

このように動物愛護管理法について、今回はさまざまな改正がされたわけだが、植田弁護士は「動物の命と共生のために、大きな制度改善の法改正がなされたといえます」と評価している。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

植田 勝博
植田 勝博(うえだ かつひろ)弁護士 植田勝博法律事務所
「消費者法ニュース」「動物法ニュース」の発行責任者。「大阪クレジット・サラ金被害者の会」(通称いちょうの会)代表。論文として、「免責をめぐる問題点」(自由と正義36巻6号)など。

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