離婚にまつわる「お金」の話というと、財産分与や慰謝料、養育費といったことが頭に浮かぶのではないだろうか。もう一つ、忘れてはいけないのが「年金分割」だが、どんなものなのか正確に答えられる人は少ないかもしれない。
そもそも「年金分割」とは何か。典型的な夫婦では、妻にどんなメリットがあるのか。そして、どんな点に注意すべきなのか。離婚問題にくわしい堀井亜生弁護士に聞いた。
●年金分割は「支払い実績」を夫婦で分ける制度
「年金分割とは、婚姻期間中に支払った厚生年金や共済年金の『支払い実績』を夫婦で半分に分割する制度です」
このように端的に述べたうえで、堀井弁護士は次のように続ける。
「しばしば、『将来、夫がもらえる年金の半額を受給できる』と誤解をされている方がいるのですが、単純にもらえる年金が半分に分けられるというものではありません。年金分割の制度は、あくまで『支払い実績』を分割するものなので、もらえる年金が半分になるのではありません」
これまでに支払った「実績」について、夫婦で分割するというわけだ。これは年金分割の基本として、押さえておきたいポイントだ。
「法律上は、2007年4月から始まった合意分割と、2008年4月から始まった3号分割にわかれており、分割の方法や割合の決め方について異なった制度が併存していますが、おおまかに制度を理解するため、以上のように簡単に考えてください」
●分割できるのは、厚生年金部分と共済年金部分だけ
「年金は、国民年金、厚生年金、企業年金(一部の方)の『3層構造』になっています。気をつけていただきたいのは、年金分割制度で分割されるのは、2層目の厚生年金・共済年金部分の『支払い実績』のみで、3層目の企業年金や、年金基金の積み増し分については分割されません。
また、国民年金(1層目)のみに加入している家庭(たとえば自営業者)は対象外なので、注意が必要です」
これも、年金分割における重要な注意点だ。すべての家庭が年金分割の対象となるわけではない、ということは覚えておきたい。
●年金分割には「時効」があるので、2年以内に判断を
「このように、年金分割は、3層構造の『2層目(厚生年金・共済年金)』の『支払い実績』を半分にする制度ですので、金額としては、さほど多くありません。
熟年離婚を考えている方が、老後の生活資金として、分割された年金をあてにしていることがありますが、よほど夫が高収入で厚生年金の掛け金が多くない限りは、分割後の年金だけでは生活できないと考えたほうがよいでしょう」
「年金分割」という言葉の響きからすると、それなりの金額を想像してしまいがちだが、過剰な期待は禁物ということだろう。
「また、若い夫婦の場合、婚姻期間の支払い実績だけでは、将来受け取る年金の金額としてはあまり大きく反映されません。さらに、分割を受けた本人が年金の受給資格期間を満たさないと、年金はもらえませんので注意が必要です」
もう一つ、堀井弁護士が指摘している注意点が「時効」に関することだ。
「実は、年金分割には時効があり、離婚から2年たつと権利が消滅してしまいます。離婚の際に条件を取り決めなかった場合でも、年金分割をするかどうかは、2年以内に判断するようにしてください」
●年金分割の具体的な進め方とは?
ここまで、年金分割に関する注意点を説明してもらったが、年金分割は具体的にどのように行えばいいのだろうか。次のような方法が考えられるという。
(1)当事者間で按分する割合を決め、次のいずれかの方法で文書を作成する
(A)按分割合を記載した「公正証書」を作成する
(B)按分割合を記載し双方が署名・捺印した文書に、公証人の認証を受け、「私署証書」を作成する
(C)当事者か代理人が、社会保険事務所に備え付けられている「年金分割の合意書」と「標準報酬改定請求書」に必要事項を記入したうえで、社会保険事務所で年金分割請求の手続きを行う
(2)裁判所での調停・審判・裁判により、按分割合を決定する
「このように、夫婦がそろって手続きをすれば、当事者で年金分割ができます。しかし多くのケースでは、話し合いが十分にできず、条件面を細かく取り決めることなく離婚しているのが現状です。
仮に妻が年金分割を希望していたとしても、夫婦が不仲になった状態では、年金分割の手続きに協力的でない夫も多いため、離婚後に、年金分割の調停を起こすケースも数多くあります」
このように説明したうえで、堀井弁護士は次のようにアドバイスしている。
「思ったよりも期待はできない年金分割ですが、とはいえ、夫の年金支払いに貢献した証ですし、わずかとはいえ、老後の生活のプラスになることは間違いありません。手続きも比較的容易ですので、あきらめずに手続きをされることをお勧めします」