事実上の夫婦生活を営んでいるのに、婚姻届を提出していない状態を「事実婚」という。かつては「内縁関係」という言葉が使われていたが、ネガティブなイメージもあるため、最近は「事実婚」と呼ぶことが多いようだ。
では、事実婚カップルの間でトラブルが生じたとき、法律婚と比べ、何か違いはあるのだろうか。弁護士ドットコムの法律相談コーナーには、事実婚の女性から「夫が浮気している」という相談が寄せられている。女性によると、6年前から同棲をして事実婚の状態にあり、「そろそろ籍を入れよう」という話をしていたという。
ところが最近になって、家にあまり帰ってこなくなり、調べてみたら、ほかの女性と浮気をしていることが判明した。女性が「話し合いをしよう」と持ちかけても、夫は応じない。女性は精神的ストレスが募って、全身にじんましんが出るような状態なのだという。
このように男性が浮気をして、それが原因で別れることになった場合、女性は慰謝料をもらうことができるのだろうか。法律婚ならば、当然に慰謝料がとれるケースといえそうだが、事実婚の場合はどうなのか。離婚問題にくわしい岩島のり子弁護士に聞いた。
●内縁であっても、法律婚と同じように扱われる
そもそも事実婚(内縁)とは、どのような状態をさすのだろうか。
「事実婚、すなわち内縁とは、婚姻意思をもって夫婦共同生活を営み、社会的にも夫婦として認知されているが、婚姻届のなされていない男女の関係です」
岩島弁護士はこのように説明する。ただ、共同生活を送っているだけでなく、「社会的にも夫婦として認知されている」という点がポイントといえそうだ。
「判例は、このような内縁を『婚姻に準ずる関係」と認め、貞操義務や婚姻費用の分担義務、財産分与と不当な破棄への救済(慰謝料)などの点で、法律婚とほぼ同様の効果を認めてきました。これを『準婚理論』といいます」
つまり、内縁であったとしても、法律婚と同じように扱われるというわけだ。では、今回のケースはどう考えられるだろうか。
●夫婦生活の実体があれば、慰謝料請求が認められる可能性が高い
「6年間にわたり事実上の夫婦生活を営み、入籍の話もあったというのですから、夫婦生活の実体が認められる可能性は十分あります。男性の浮気で関係が解消された場合には、女性からの慰謝料請求が認められ、財産分与についても法律婚と同様に処理される可能性は高いでしょう。」
このように岩島弁護士は説明する。どうやら、問題の女性は慰謝料をもらうことができそうだ。
ちなみに、最近は「事実婚」という言葉がよく使われるが、「内縁」と違った意味で用いられることもあるという。岩島弁護士によれば、「主体的な意思で婚姻を回避した婚外関係を、従来型の内縁と区別して『事実婚』と表現することがあります」というのだ。
「このような意味での『事実婚』についても、内縁に準じた取扱いをするのが一般的でしたが、平成16年11月18日の最高裁判決は、婚姻外の継続的男女関係を一方的に解消した男性の不法行為責任を否定しました。つまり、慰謝料を認めなかったのです。
これは、カップルの婚姻回避意思が明確で、共同生活の実体もないことに着眼したものです。社会一般で『事実婚』と表現される関係も、その実体は多様です。どこまで『準婚理論』が適用されるのかは、注意が必要です」