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中国のテレビで「アンジャッシュ」のネタがパクられた!?「コント」の著作権とは?
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中国のテレビで「アンジャッシュ」のネタがパクられた!?「コント」の著作権とは?

中国の国営テレビ局が放送した番組内でのコントが、日本のお笑いコンビ「アンジャッシュ」のパクリではないかという疑惑が浮上し、話題になった。

報道によると、問題になったのは、2月中旬に放送された中国の旧正月(春節)の年越し番組のコントだ。コントでは、ある男性が、古着の買い付けに自宅を訪れた店員と、娘との結婚を申し込みにきた男性を勘違いして、すれ違った会話を繰り広げる。

アンジャッシュのコントでも、ある男性が、自宅にどんぶりを回収しにきたそば屋の店員を、娘との結婚を申し込みに来た男性と勘違いして繰り広げられる会話がネタになっており、盗作ではないかとネットで指摘された。

この番組では数年前にも、アンジャッシュのネタの「パクリ疑惑」が指摘されていたそうだ。もし日本でコントのネタをパクった場合、著作権侵害にあたるのだろうか。著作権にくわしい唐津真美弁護士に聞いた。

●テレビで放映されるようなコントは「著作物」

「『コント』と言うと、少し軽い響きがありますが、内容はセリフや動きを作りこんだ『演劇作品』そのものと言える場合が多いと思います」

唐津弁護士はこう切り出した。たしかに、今回話題になったアンジャッシュのコントを始め、作りこまれているものも多い。コントにも著作権はあるのだろうか。

「法律では、著作権の対象となる著作物を『思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するもの』と定義しています(著作権法2条)。演劇作品の『脚本』も著作物に含まれています。

著作物にあたるかどうかは、コントの構成要素を分析・検討したうえで、次の2点について判断します。

(1)作品全体または侵害が主張されている部分全体について、表現といえるか

(2)表現上の創作性を有するか否か

テレビで放映されるようなレベルの数分間のコントであれば、まず著作物性がみとめられるでしょう。

コントの脚本が著作物である場合、他の言語に無断翻訳したり、脚本そのままか、わずかな変更を加えただけで無断上演すると、原則として著作権侵害が成立することになります」

●設定だけをパクるなら問題ない?

元ネタを丸ごとパクるのではなく、ある程度変更を加えたり、一部だけをパクったりする場合は許されるのだろうか。

「両方のコントの内容を対比して、(a)類似している部分の表現に創作性があるか、(b)どれくらい類似性があるのかを検討して、著作権侵害の成否を判断することになります。

元ネタのアイデアなど表現そのものではない部分や、表現上の創作性がない部分だけをマネしている場合は、著作物の『複製』にも『翻案』(元の著作物のストーリー性を変えず、具体的な表現を変えること)にもあたらず、著作権侵害は成立しません」

今回のケースでは、人物設定などに多少の違いがあったようだが、どうなのだろうか。

「たとえば、元ネタの『娘の婚約者が来ると思って待ち構えていたら、ちょうどそこにどんぶりを回収するソバ屋がやってきた』という設定だけをパクり、その後の展開や具体的なセリフが元ネタとまったく異なる場合には、著作権侵害は成立しないでしょう。

他方、設定を多少変えても、筋の運びや展開、登場人物の個性などの要素が共通していて、しかも具体的なセリフの共通点が多ければ、著作権侵害が成立する可能性は十分にあると考えます」

●一発ギャグは「著作物」にあたらない場合が多い?

ある程度長いコントの場合、判断材料がいろいろとありそうだが、たとえば、短い「一発ギャグ」の場合はどうなるのだろうか。

「コントと比較すると、一発ギャグの場合はそもそも『著作物』であるかどうかが問題になります。

具体的な例はあげにくいのですが、『キメの一言』と『それに伴うポーズ』という組み合わせの場合、どんなに面白かったとしても、それだけでは創作性は認められない可能性があります」

その判断には、時間的な長さが関係するのだろうか。

「パクられた部分が時間的に短いからといって、著作権侵害が認められないとは限りません。

映像の著作権が争われたケースですが、最近の裁判例で『遠山の金さん』が桜吹雪の刺青を披露するシーンを『著作権によって保護されるべき創作性ある表現』として認めたものがあります。

やはり、コントでも一発ギャグでも、オリジナルのネタで勝負してもらいたいものです」

唐津弁護士はこのように述べていた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

唐津 真美
唐津 真美(からつ まみ)弁護士 高樹町法律事務所
弁護士・ニューヨーク州弁護士。アート・メディア・エンターテイメント業界の企業法務全般を主に取り扱う。特に著作権・商標権等の知的財産権及び国内外の契約交渉に関するアドバイス、執筆、講演多数。文化審議会著作権分科会専門委員も務める。

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