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「警察が24時間、ビルの前で見張っている」第三書館・北川社長に聞く(後編)
第三書館が入るビル前には、警察車両が並んでいる

「警察が24時間、ビルの前で見張っている」第三書館・北川社長に聞く(後編)

イスラム過激派に襲撃された仏週刊新聞「シャルリー・エブド」の風刺画などを集めて、日本で本を出版した第三書館。その社長の北川明さん(71)は、シャルリー・エブドの風刺画について、ウィットがない「ヘイト画」であると指摘する。そのような風刺画を許容しているフランス社会と、在日韓国・朝鮮人へのヘイトスピーチやヘイト本が存在する日本社会は、同じ状況にあるのだ、と。

弁護士ドットコムのインタビューの前編で、北川さんは、「ヘイト問題に関する議論の素材を提供したい」という思いが出版の背景にある、と語った。しかし、そのような思いとは裏腹に、イスラム教徒などから本の出版に反発する声が数多くあがっている。北川さんのもとには、どんな反応が寄せられ、どう受け止めているのか。書店や警察の動きも含め、具体的に語ってもらった。

※「イスラム預言者の風刺画は日本のヘイト本と同じ」第三書館・北川社長に聞く(前編)

●注文をやめた書店がいくつもある

――書店の反応はどうですか。

本屋さんと長い付き合いですが、反応がめちゃくなんですよ。日本の本屋さんは変わったなと思っています。

――どんなところがでしょう?

この本を出ると聞いて、イスラム教徒があちこちの書店に電話した。それで売るのをやめてしまった書店がある。「電話がかかってきたからやめた」という話が、何件もあったんですよ。

でも、その時点で本屋さんは本を読んでいない。発売前に売らないと判断するのは、本屋としてどうなのか、と。もう少し時間があったら、書店に議論にいきたいと思っていますけど。

彼らは、中韓のヘイト本は出している。では、中国人や韓国人が「売るな」と言ったら、どうするのか。彼らは売りますよ。明らかな差別があるわけです。

――危険だと過剰反応しているということですか。

この本を売ると「イスラム国」が襲ってくる、と思っているのでしょう。それは全くのデタラメ。チンピラやくざが暴力団をよんでくる、というようなもの。ブラフなんです。日本の社会では、本に対する批判は、本が出てからするのが当然だと思っていた。でも、それが守られなかった。

書店にしろ、反対する人たちにしろ、彼らが誤解しているのは、うちから出すのが「シャルリー・エブド万歳」の本だと思っていること。出版前から抗議していること自体、そうだからなんでしょう。

2月13日にここ(第三書館の入るビル)へデモにきたイスラム教徒の一人とは、発売日の10日に電話で話をしています。デモにきたときに「この本をあげるから」と言いましたが、「いらない」と彼らは言う。

――書店にはどのくらいの数が置かれていますか。店頭には出さない店舗もあるようですが。

いまは、こちらの在庫が出払ったところですね。

(東京駅近くの)八重洲ブックセンターからは、50部の注文が入ったけれども、返本になっている。こういうのが困る。1月に新刊の告知をした後に注文が入り、日本人人質事件のあとに1度、断りが入った。その後、再度「50部ほしい」と注文してきたので、それで入れたら、発売後にまるまる50部を返してきた。

(編集部注:弁護士ドットコムの取材に対して、八重洲ブックセンターは「返品したかどうかは内部的な話なので、公表しません。ただ、店頭には置いていません。何かあったときに、被害が出るのはお客さんです。それを第一に考えて置きませんでした」と回答した)

●日本人人質事件で空気が変わった

――全般的に、書店側の腰がひけていると感じていますか。

最初は、そうでもなかった。でも、日本人2人が「イスラム国」に誘拐されたことがわかったころから、空気が変わったと思います。逆にいうと、ある意味で、注目された。フランスでイスラム教徒とキリスト教徒がもめている話なんて、日本人は関係ないじゃないですか。

――空気が変わってきたというのは?

急にイスラムが目の中に入ってきたから、おびえているんでしょう。本当は2001年のアメリカ同時多発テロの時点で、気がつくべきですが。イスラム教徒は、自分たちが先制攻撃したのではなく、復讐なのだと言っている。

しかし、あの時点では、日本にとって他人事。今回、日本人が捕まったから「こわい」という空気になった。イスラム教徒がこわいから、イスラム教徒が怒っているなら出版をやめろ、という空気になった。

でも、日本の社会には「言論・出版の自由」がある。治安も保たれている。

――しかし、古い話では、日本でも翻訳者が殺害された「悪魔の詩」事件がありました。

(編集部注:1988年、イギリスの作家・サルマン・ラシュディがムハンマドの生涯を題材にした「悪魔の詩」を発表。イランの最高指導者のルーホッラー・ホメイニは、著者、発行に関わった者への死刑宣告を行う。1991年、日本版の翻訳者、五十嵐一・筑波大学助教授は何者かによって殺害された)

あの作品は、イランの最高指導者のルーホッラー・ホメイニがけしからん、といった。その後、イスラムの中でのいろいろななりゆきがあって、本を書いた作品や翻訳者はダメだとなった。それが、正しいかどうかは別ですよ。しかし、書いた人間や翻訳した人間が襲われたけれど、出版社は襲われていないし、ましてや、読んだ人は襲われていない。

――この本は、違うということですか

この本をよく読めば、「シャルリー・エブドはダメだ」と書いてあることがわかる。

デンマークで先日起こったテロ事件は、あの集会がシャルリーの全面支持派による「シャルリー万歳」だったから、襲われたわけですよ。しかし、うちは「ダメだ」と言っているのだから、同じように襲われるという論理はありえないですね。別の人が襲う可能性はあるかもしれないけれど。

●発売日から続く24時間の警備

――とはいえ、第三書館が入るビル前には、警察車両が並んで、警備されていますね

あれは、私が頼んだことではないから。警察が「24時間、見張る」と言ってきた。そういうポーズを取っているということではないか。発売日からずっと続いています。

――警備対象となっていることに、どうお考えですか。過剰? あるいは、当然?

まあ、彼らがそうするべきだと思ってやっているのに対して「止めろ」とは言いませんよ。僕の行動が制限されているわけでもないし。ただ、警察がアリバイ的にやっているだけだなあ、と思っています。

――話は変わるのですが、2010年に第三書館は『流出「公安テロ情報」全データ イスラム教徒=「テロリスト」なのか?』を発売されていますね。

あのときは、販売中止になっています。

――今回は、そういった出版差し止めを求める動きは?

今回は、被害者というものがないから。『公安テロ情報』のときは、実名を出された人たちがプライバシーを侵された、として販売中止になりました。しかし今回は、被害者がムハンマドなのか、ということになる。違う話です。

だいたい、ネットにある情報を紙に印刷したらけしからん、という論理でよいのか。あの本に関しては、裁判所がそう考えたから負けた。裁判所の論理ははっきりしていて、ネットに出ていても問題ない。印刷したとたんに問題になる、ということです。

でも、「ネットにあるから印刷するな」というのはおかしいし、出版には歴史に残す役割がある。出版社であるかぎり、残していくべきなんですよ。

ネットで税金申告できる時代になったけれども、それでも、裁判所はいまだ、ネットに出た情報は問題ではなく、紙に印刷されたとたんに犯罪になると言っています。

――北川さん自身に恐れはないのですか

何かあれば、怖いですよ。でも、何もないから、恐れはないですよ。形のない恐れはよくない。私が「シャルリー・エブド万歳」という本を出したら、もっと気をつけますけど、そうではないから。

とにかく、実際に読んだら、たいていの批判が間違っていることがわかるはずです。まずは、読んでください。

※インタビュー前編~「シャルリー・エブドの風刺画は日本のヘイト本と同じ」

(弁護士ドットコムニュース)

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