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犬の「大量遺棄事件」はなぜ起きたのか?弁護士が指摘する「ペット業界」の構造的問題
ペット業界の問題点を語る細川敦史弁護士

犬の「大量遺棄事件」はなぜ起きたのか?弁護士が指摘する「ペット業界」の構造的問題

栃木県の河川敷や山林で10月〜11月、ミニチュアダックスフントやトイプードルなどの人気犬種約80匹が遺棄された状態で見つかるという事件が起きた。

その後、ペットショップの元従業員が犬を捨てた疑いで逮捕され、罰金の略式命令を受けた。報道によると、愛知県のブリーダーが廃業した際に犬80匹を買い取ったが、木箱に入れてトラックで輸送しているときに多くが死んでしまい、処分に困って捨てたのだという。

ほぼ同じころ、佐賀県で大量の犬が捨てられていたというニュースが報じられた。ペット業界でいま、何が起きているのか。ペットの問題にくわしい細川敦史弁護士に聞いた。

●大量遺棄事件は過去にも起こっていた

——栃木の遺棄事件について、どう見ていますか?

「法改正によって、業者が保健所に動物を持ち込めなくなったことが事件のきっかけと見る声もあるようですが、必ずしも法改正だけが事件の要因とは言えません。そもそも法改正前から、業者による10匹や20匹の大量遺棄事件は起きていました。個人遺棄にいたっては日々各地で起きています。

また、保健所での引き取りが義務だった法改正前でも、『業者からの引き取り要請には応じない』という自治体も半分くらいありました。

むしろ、ペットを飼う人が減り、売れる数が少なくなって、業者の経営状態が悪化したことが大きな要因だと思います」

——今回のように大量の犬が遺棄・放置された事件は、過去にもあったのでしょうか?

「はい。たとえば2009年に、茨城県のある繁殖業者の施設で、劣悪な環境で飼育されていた64匹の犬が見つかった事件がありました。犬たちは糞尿まみれの狭いケージで飼育されており、毛も爪も伸び放題のひどい状態だったようです。

この事件では、64匹の犬すべてに対して虐待(ネグレクト)があったと認められました。通常、犬は一匹ずつ検査をするので、何匹かは虐待が認められない犬がいてもよさそうなものですが、64匹すべてに虐待が認められたというのはかなり珍しいです。この事件は2009年に発覚し、2010年に繁殖業者が罰金で処罰されました」

——64匹もの犬を虐待して罰金だけというのは、刑が軽いような気もしますが・・・

「この事件のとき、動物をネグレクトした人への罰金は上限50万円でしたが、2012年の法改正で、上限が100万円まで上がりました。

また、動物虐待に関する事件が起きると、その種の犯罪を許せないと思う人によって、犯人の顔写真や実名がネット上に公表されることがあります。こうした行為は好ましいとは思えませんが、刑罰だけではなく、そういった社会的制裁も受けることになります。

ちなみに、2000年以前は、誰の所有物でもない野良猫などを虐殺しても、刑罰の上限は罰金3万円でした。それが法改正のたびに重くなり、今では2年以下の懲役または200万円以下の罰金が科せられるというように厳しくなりました。

ただ、特に野良猫の虐殺は目撃者のいないところで行われる場合が多く、犯人が捕まりにくいです。人間なら『あいつに殴られた』と言えますが、動物は被害の声を上げることができませんから」

●「犬の8週齢問題」とは何か

——法改正のたびに、「犬の8週齢問題」が議論になるようですが、これは具体的にどういうことなのでしょうか?

「犬は、幼い時期に親犬やきょうだい犬から引き離すと、犬としての『社会化』が適切に行われず、成犬になってから問題行動が出やすくなると言われています。引き離しをすべきでない幼い時期がいつかという点について、欧米の法律では56日(8週齢)とされていることが多いので、『犬の8週齢問題』と言われています。

しかし、日本では、幼いほうが可愛くてよく売れるからと、生後30〜40日程度で販売している業者が少なくありません。

2012年に、生後56日までの犬猫は『展示販売』ができないよう法律が改正されました。ところがこれには裏があり、業者が法改正に対応するための準備期間として、執行後3年間は『56日を45日と読み替える』という条文が付いていたのです。

45日の対応期間が終わった2016年9月からは、次の49日という段階になります。しかし、いつ最終段階の56日となるのかわかりません」

——8週齢を過ぎる前に親やきょうだいから引き離すと、後々問題が出るというのは本当なのですか?

「動物病院の獣医さんの中には、8週齢前に引き離すことを問題視している人は沢山います。3カ月くらい待ったほうがいいという人もいるようですね。

ただ一方で、さきほど紹介した事件のようなひどい環境であれば、56日間もその場所に入れておかれるのは、逆に問題があると思います。

実は法律上は、ペット業者が動物を収容する『場所』について規制があるのですが、あいまいです。『動物姿勢で立ち上がる、横たわる、羽ばたくことができる十分な広さ及び空間』といった、あいまいな内容であるため、基準を満たしているのか否か、指導すべき行政も判断しづらいのが現状です。

法改正のたびに、『1匹あたり何平方メートルというような、明確な数値規制をすべきではないか』ということが検討されるのですが、業者は反対しています」

●「ペットを飼わないのも愛」

——これからペットを飼おうという人に伝えたいことはありますか?

「『飼わないのも愛』ということ。将来、引っ越したり、自分や家族が病気になるリスクなども見越して、最後まで責任を持って飼い続けられるか、よく考えてほしいです。

また、出会いの場はペットショップだけではありません。保健所や保護された犬や猫が暮らすシェルターも、ぜひ選択肢の1つに入れてほしいなと思います」

——急にペットを手放さざるをえなくなったとき、飼い主はどうすべきでしょうか?

「どうしても引き取り手が見つからない場合もありますよね。飼えなくなったペットの引き取り業者もありますが、中には引き取った後、飼い殺し・ネグレクト同然の劣悪な環境で飼育している業者もあります。

元の飼い主が様子を見に行ったら、『逃げてしまいました』とか『原因不明の病気で急死しました』などと言われたというケースもあるようです。業者の管理が悪くて死んでしまった可能性もあると思うのですが。

もちろん、飼い主が最後まで育てようという意識を持つことは大切です。一方で、どうしても飼えなくなったときの受け皿を、社会的に整えることも必要でしょう。たとえば、動物を保護する施設や団体が寄付を受けやすい土壌を作る。その方法として、寄付をした人の税金を優遇するなどの措置も、検討すべきだと思います」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

細川 敦史
細川 敦史(ほそかわ あつし)弁護士 春名・田中・細川法律事務所
2001年弁護士登録。交通事故、相続、労働、不動産関連など民事事件全般を取り扱いながら、ペットに関する事件や動物虐待事件を手がける。動物愛護管理法に関する講演やセミナー講師も多数。NPO法人どうぶつ弁護団理事長、動物の法と政策研究会会長、ペット法学会会員。

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