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政府が準備を進める「秘密保全法」 その問題点はどこにあるか

政府が準備を進める「秘密保全法」 その問題点はどこにあるか

外交や防衛などの国家機密の漏えいを防ぐことを目的とした「秘密保全法」が政府によって検討されている。2011年には秘密保全法制に関する報告書が有識者によって作成され、政府が法案化を進めることが決定された。安倍政権は秘密保全法の成立に意欲的と伝えられているが、「個人のプライバシーを侵害する恐れがある」などとして、秘密保全法に反対する声もあがっている。

そのような中、日本弁護士連合会(日弁連)は2013年2月19日、東京・永田町の参議院議員会館で「秘密保全法制と言論の自由」と題する集会を開催した。集会では、日弁連の秘密保全法制対策本部事務局長をつとめる清水勉弁護士が現状の報告を行ったほか、毎日新聞外信部編集委員の大治朋子記者がアメリカの先例を紹介しながら、秘密保全法制の問題点を指摘した。

現在、政府が検討している「秘密保全法」は、外交や防衛の機密など、国にとって重要と考えられる「特別秘密」を漏らした公務員らを厳しく罰することを柱にしているという。法案はまだ国会に提出されていないが、政府が「特別秘密」の範囲を思いのままにする危険性や、公務員が情報のコントロールを強める恐れなどが指摘されている。そのため、日弁連などは秘密保全法制に強く反対している。

●「私たちの『知る権利』が脅かされるおそれがある」

集会の冒頭にあいさつした日弁連の高崎暢副会長は、秘密保全法制について、「国民主権、民主主義に正面からぶつかる内容になっている。『報道の自由』や『取材の自由』が制限され、私たちの『知る権利』が脅かされるおそれがある」と述べ、その危険性を強調した。また、清水弁護士は、福島第一原発事故後の状況などを例に挙げ、「いま一番必要なことは情報公開だ」とまとめた。

秘密保全法制をめぐっては、尖閣諸島をめぐる中国との対立や北朝鮮の核実験などをきっかけに注目を集めている「国家安全保障基本法案」の動きが大きく関わっている。というのも、自民党が昨年夏に取りまとめた「国家安全保障基本法案」の中には、秘密保全法制の義務付けが盛り込まれているからだ。高崎副会長によると、「政権交代のもと、秘密保全法案が政府から提出される可能性は高まっている」という。

●911後にアメリカで成立した「愛国者法」の副作用

このような状況で、秘密保全法制が成立した場合に影響を受ける可能性がある報道の現場は、どのようなことを考えているのだろうか。集会では、2006年から2010年までワシントン特派員をつとめた大治記者が、アメリカの「愛国者法」を引き合いに、秘密保全体制の危険性を説いた。

愛国者法とは、2001年9月11日に起きたニューヨーク同時多発テロの直後に、テロに対する大きな不安がおとずれたアメリカで成立した法律である。その目的は、国内外のテロリズムと戦うというものだったが、大治記者によると「実際の目的とは違う方向に権限と機能が拡大していった」という。

大治記者が取材したところ、ナショナル・セキュリティ・レターズ(NSL)と呼ばれる緊急捜査令状の利用が拡大したことがわかった。NSLとは、裁判所ではなくて、FBI(連邦捜査局)が発行する令状で、2000年には全米で8500件だった発行数が、テロ後の2003年には約4万件、2005年には5万件近くにも上ったそうだ。

●「愛国者法」の名のもとに割り出される「インターネットの検索履歴」

では、何倍にも発行数が増えたNSLは、どのように使われていたのだろうか。「NSLを提示すれば、たとえば図書館の借り出し記録などが裁判所の令状なしでとれるようになった」と大治記者は説明する。つまり、FBIという国家権力が、個人情報をより簡単に入手できるようになったということだ。

「大学生がレポートを書くために、図書館のインターネットで『イスラム原理主義』と検索すると、その検索をかけたのが誰なのか、図書館カードから身元を割り出すということも。要するに、『この人は怪しい留学生だ』と」。だが、そこまでして調べあげたにも関わらず、テロリストとして逮捕されたのは、2009年から2010年にかけては1人だけだったという。

このようなことから、愛国者法の名のもとに国家権力による個人のプライパシー侵害が次々と行われただけだったという指摘もある。同じことは、日本政府が検討している秘密保全法制についても起こりうることなのかもしれない。大治記者は「愛国者法のような法律を作る前には事前に十分議論をしなければならないし、仮にできたとしても、チェックする第三者機関・外部機関が絶対に必要だ」というアメリカの弁護士の言葉を紹介しながら、秘密保全法に関する議論の必要性を訴えた。

(弁護士ドットコムニュース)

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