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自動車ナンバーで客の居住地域をつかむ――そんなシステムは「プライバシー侵害」か?
車のナンバーまでをもビジネスに利用する動きが広まりつつある

自動車ナンバーで客の居住地域をつかむ――そんなシステムは「プライバシー侵害」か?

パチンコ店の駐車場に入ってきた車のナンバープレートをカメラで撮影し、ナンバーを自動車登録情報(車検証情報)と照合することで、客がどこから来たのかを分析する――。そんなシステムが発売されたと、毎日新聞が報じている。

毎日新聞によると、システムは東京都内の駐車場コンサルタント会社が開発。埼玉県戸田市のパチンコ店で今年2~3月に約1万台のデータを分析したところ、4割の客が事前に推定していた「商圏」以外の地域から来ていたことが分かった。こういったデータを活用して、広告チラシの配布や誘導看板の設置に役立てることができるという。

撮影したナンバーを自動車検査登録情報協会(自検協)と全国軽自動車協会連合会(全軽自協)に送信すれば、車検証に記載された車種やメーカーに加え、町名と大字までの住所を知ることができる仕組みになっている。

このコンサルタント会社は、丁目や番地、氏名は省かれていることから、「個人情報にはあたらない」と説明しているが、プライバシー侵害などの法的問題は生じないのだろうか。小林正啓弁護士に聞いた。

●登録情報の公開には「一定の合理性」がある

「報道を見る限り、このビジネスがただちに違法ということにはならないでしょう。

なぜなら、道路運送車両法に基づき、特定の事業者に一定の範囲で、オンラインによる自動車登録情報の公開が行われているからです。

もともと、2006年の法改正前は、普通自動車の登録情報は、全部が公開されていました。誰でも、陸運局に行けば閲覧することができました」

なぜ自動車の登録情報は、公開されているのだろうか。

「事故が起きた場合の刑事責任の所在をはっきりさせるという意味もありますが、それ以外にも、自動車をめぐる取引の安全や迅速性を図る、という意味もありました。このような社会的要請からすれば、自動車登録情報の公開には、一定の合理性が認められていたと考えられます。

一方、国民のプライバシー意識の高まりや、『悪用事例の多発』もあって、現行の一部公開制度に改められました」

●所有者の特定をめぐる「プライバシー」の問題

では、現在の仕組みにはどんな問題があるのだろうか。

「様々な立場から批判されているのが現状です。

1つ目は、『プライバシーの保護が足りない』という批判です。国土交通省は、『所有者の住所は大字までしか公開されないから、プライバシーの保護は十分だ』という立場ですが、『車種や型式もあわせて公開される以上、住所が大字まで公開されれば、所有者は簡単に特定できてしまう』という批判があります。

2つ目は、自動車の所有者責任を明らかにするという自動車登録制度の趣旨が失われたという批判です。たとえば、かつては、迷惑駐車を繰り返す自動車の所有者を割り出すことは、誰でもできましたが、法改正後は公開範囲が限定されたため、困難になってしまいました。常に警察が動いてくれるとも限りません。

3つ目は、公開の対象が不公平だという批判です。現行法では、オンライン照会できるのは、一定の条件を満たす事業者(法人)だけで、一般人は対象とされていません。

自動車登録制度やオンライン公開制度は、いまだ成熟した制度ではないといえます。今回のようなビジネスの観点からの利用とプライバシー保護との調整は新しい問題ですから、皆で知恵を出し合って良い制度を作っていくことが大事です」

たとえ公開情報だったとしても、仕組みしだいでは、プライバシー侵害につながりかねないものがあるかもしれない。今後の技術の進化も含めて、論点を整理する必要があるだろう。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

小林 正啓
小林 正啓(こばやし まさひろ)弁護士 花水木法律事務所
1992年弁護士登録。ヒューマノイドロボットの安全性の問題と、ネットワークロボットや防犯カメラ・監視カメラとプライバシー権との調整問題に取り組む。

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