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男でも女でもない――海外の裁判で認められた「中立的な性別」 日本での可能性は?
生物学的な性別は「男」か「女」であるとこれまで考えられてきた

男でも女でもない――海外の裁判で認められた「中立的な性別」 日本での可能性は?

「私は男でも女でもない」。そんな訴えをオーストラリアの最高裁が受け入れ、男性でも女性でもない「中立的な性別」での住民登録を認めたとして、話題になっている。

判決文によると、裁判をしたのは男性として生まれたノリー氏で、1989年に性別適合手術(性転換手術)を受けたが、それでも自身の性的不明確さは解決されなかったとして、2009年に「非特定(non-specific)」として登録されるよう申請。ニューサウスウェールズ州政府が拒否したことから、裁判になっていた。

これまで、性別といえば「男」か「女」だけだったが、GID(性同一性障害)に対する性別適合手術が一般化してきたいま、自分自身を「どちらでもない状態」と考える人は少なからず存在しそうだ。インドでも先日、最高裁が「第三の性」を認めたと報道があった。

もし、日本で同様の訴えを起こしたら、戸籍に「男」「女」以外の性別を書いてもらえる可能性はあるのだろうか。性的マイノリティの問題に積極的に取り組んでいる南和行弁護士に聞いた。

●現状では「男」「女」しか認められない

「いまの日本で戸籍に『男』『女』以外の性別を記載することは難しいと考えます」

南弁護士はこう切り出した。

「その理由は、戸籍作成のもとになる出生届の記載事項について、法律が『男女の別』と規定しているからです(戸籍法49条2項1号)。

住民票の記載事項についても、法律は『男女の別』と規定しています(住民基本台帳法7条3号)」

そうした定義がなされているなら、「男」「女」以外の性別を書き込んでもらうことは難しそうだ。

ただ、この「男女の別」という表現は、明治時代の旧戸籍法から使われているもの。性別変更など考えられなかった当時と比べると、環境はずいぶんと変わっているはずだが・・・。

「日本では、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(性同一性障害特例法)が2003年に成立しました。

これにより、身体の性別と心の性別が異なるトランスジェンダー(性同一性障害)の人たちについて、法律が定める要件を満たせば、法律上の性別取扱いの変更を求めることが可能となりました。

しかし性同一性障害特例法も『生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別』という言葉を使い(性同一性障害特例法2条)、男でなければ女、女でなければ男という『性別二分法』を前提としています」

●「多様性を受け入れられる法整備」を

今後もそのままで良いのだろうか? 南弁護士は次のように述べ、法改正に向けた議論の深まりに期待していた。

「現在の法制度が、『自分は男女いずれの枠にも規定できない』と考える人にとって、納得できるものなのか疑問が残ります。

自分がどのような性にあるかの認識(性自認)は、人によって多様です。その多様性を受けいれられる法の整備が求められます」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

南 和行
南 和行(みなみ かずゆき)弁護士 なんもり法律事務所
1976年生まれ。京都大学農学部・同大学院修士課程修了。建材メーカー勤務を経て、2006年に大阪市立大学法科大学院修了(1期生)。2009年弁護士登録。2013年にパートナーの吉田昌史氏とともになんもり法律事務所を開設。松竹芸能にタレント弁護士として所属し、テレビ番組のコメンテーターなどを務める。著書に『同性婚 私たち弁護士夫夫(ふうふ)です』(2015年、祥伝社)などがある。

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