あの手この手で偽のサイトに誘導し、個人情報などをだまし取る「フィッシング詐欺」。2月中旬には大手検索サイト・ヤフー「Yahoo! JAPAN」 の広告を使った手口が登場し、世間を驚かせた。ヤフー「Yahoo! JAPAN」の検索結果ページに、「偽の銀行サイト」へ誘導する広告が表示されていたのだ。
偽サイトに誘導された顧客が、ネットバンキングの暗証番号やパスワードなどをだまし取られた結果、京都銀行では3口座から5件の不正送金が行われた。このうちの1件50万円は、実際に振込先銀行から払い出されてしまったという。
被害者からすれば、まさか検索結果のページに「偽サイト」へ誘導する広告が掲載されているとは思わなかっただろう。「Yahoo! JAPAN」を運営するヤフー株式会社はこうした事態に対して、広告の新しい審査基準を設けることやパトロールの厳格化を進めると発表したが・・・。
検索サイトに表示された広告がきっかけで詐欺に遭ったような場合、検索サイトに法的責任が発生する可能性はあるのだろうか。岡田崇弁護士に聞いた。
●広告内容に関する「掲載メディア」の責任
「新聞や雑誌にウソの広告が掲載され、それを信じた読者が損害を受けたときに、新聞や雑誌などのメディア側が責任を負うかという問題は、以前から論じられています」
岡田弁護士はこのように切り出した。これまで、どんな議論が行われてきたのだろうか。
「判例は一般的に、広告を掲載したメディアの責任を限定的に解しています。
たとえば、『日本コーポ事件』(最高裁平成元年9月19日判決)では、『広告内容の真実性をあらかじめ十分に調査確認する一般的な法的義務はない』としたうえで、広告を掲載した新聞側の責任を否定しています」
しかし、常にメディアに法的責任がないというわけではない。
「『パチンコ攻略法』をめぐる詐欺広告の事件(大阪地裁平成22年5月12日判決)のように、広告を掲載した雑誌側の責任を認めたケースもあります。
この判決で、大阪地裁は、『広告内容の真実性に疑念を抱くべき特別の事情があって、読者らに不測の損害を及ぼすことを予見し、または予見し得たときには、真実性の調査確認をして、虚偽広告を読者らに提供してはならない義務がある』と判断したのです」
●紙媒体とネット媒体は区別するべき?
こうした事例を踏まえ、今回のようなケースを考えるとどうだろうか。
「今回は、広告内容が金銭的被害を生じやすい『銀行』に関するものであったにもかかわらず、リンク先が銀行の公式ホームページのドメインと異なっていました。
そのような点からすれば、『広告内容の真実性に疑念を抱くべき特別の事情があって、検索者に不測の損害を及ぼすことを予見し、または予見し得た』として、検索サイト側に真実性の調査義務があったとして、法的責任が認められる可能性もありそうです」
ただ、あくまでも判例は、新聞や雑誌という伝統的な媒体に関するものであり、検索サイトのような新しいメディアについては、話が別だという考え方もありうる。
「インターネット広告と従前の新聞・雑誌等の広告を同等に扱うことができるかどうかについては、議論の余地があるところであり、今後の議論が待たれるところです」
岡田弁護士はこのように指摘し、議論がもっと深まることを期待していた。