テレビでも大人気の「ものまね芸」。そんな「ものまね」のライブショーを目玉とする飲食店が全国各地に存在する。その一つを、JASRAC(日本音楽著作権協会)がこのほど、著作権侵害で名古屋地裁に訴え、話題になっている。
提訴されたのは、名古屋市内のものまねショーパブ。JASRACが管理している楽曲を無許可で利用し、ものまね芸の際にカラオケとして流しているというのだ。JASRAC側は再三にわたって店に契約を結ぶよう求めたが、店は応じず、楽曲を無断利用し続けているという。
ものまねショーパブに支払いを求めた訴訟は全国で初めてということだが、こうした際には、利用料を支払わなければならないものなのだろうか。著作権にくわしい中谷寛也弁護士に聞いた。
●「ものまねショーパブ」も著作権者の許諾が必要
「原則として、他人の作詞・作曲した楽曲を演奏したり、録音物(CDなど)を再生してその場にいる人に聞かせたりする場合には、著作権法により、作詞者や作曲者など著作権者の許諾を得る必要があります。
例外として、お客さんからお金をもらわず、また演奏者などにもお金を支払わないコンサートなどの場合は、許諾を得なくても良いことになっています。
ただ、ものまねショーパブの場合は、当然お客さんからお金をもらいますし、ものまねタレントにもお店からお金が支払われますから、許諾を得なくて良い例外にはあたりません」
店と著作権者の問題に、どうしてJASRACが出てくるのだろうか?
「著作権者は当然ながら曲によってそれぞれ異なりますから、1曲使うごとに、いちいちそれぞれの曲の作詞者や作曲者から許諾を受けていたらとても大変で、現実的ではありません。
そこで、こうした著作権者の権利をまとめる団体(著作権管理団体)の一つとして、JASRACがあります。
著作権管理団体の役割は、著作権者と信託契約を結び、著作権者の代わりに利用許諾を行い、利用者から受け取った料金を著作権者に分配することです」
●「JASRACとの契約」が必要になるのが大半
ものまねショーで楽曲を利用する際には、必ずJASRACと契約しなければならないのだろうか?
「音楽の著作権管理業務は2000年の法改正で自由化されましたが、長くJASRACが独占していたこともあり、メジャーな楽曲のほとんどは今もなお、JASRACが管理している状態と言って良いでしょう。
したがって現実問題としては、日本で有名な曲のカラオケをものまねショーパブで使用したいという場合には、JASRACと契約し、JASRACを通じて許諾を得る必要があるのが大半でしょう。
さらに使用曲によっては、JASRAC以外の団体と契約を結んだり、場合によっては作詞者・作曲者から直接許諾を得なければならないケースもありえます」
こうした形態の商売をするとなれば、JASRACとの契約は、現実問題としては欠かせないことになっているようだ。中谷弁護士はこうしたJASRACの現状について、次のように締めくくっていた。
「JASRACというと、今回のように差止め訴訟を提起するときにニュースになることが多いので、音楽をなるべく使わせないように活動しているような印象があるかもしれませんが、実は本来の目的は逆です。
本来は、多くの音楽を多くの人が簡単な手続で利用できるようにして、また著作権者に公平にその利用料を分配する、というための組織なんですね。
ただし、JASRACが本当にその目的を果たしているのか、疑問を持つ人も少なくありません。特に、著作権者側からは、本当に徴収した利用料が公平に分配されているかという疑問も多く提起されています。こうした疑問に対して、JASRACはきちんと向き合って、著作権者・利用者を含めた多くの人の理解を得られるよう努力していかなければならないでしょう」