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給食費を払っていない児童の食事を「没収」・・・もし日本の学校で起きたら?
子どもたちにとって、給食は大きな楽しみの一つだ

給食費を払っていない児童の食事を「没収」・・・もし日本の学校で起きたら?

友達とおしゃべりをしながら楽しむ給食の時間。そんなホッとするひとときに「事件」は起きた。児童が料理を食べようとする直前、目の前にある給食を「没収」されてしまったのだという。

CNNの報道によると、舞台となったのはアメリカ西部ユタ州の小学校。児童数十人の給食が、食堂の担当者によって没収された。その理由は「給食費の納入が遅れている」というものだ。怒った保護者たちが学校側に抗議をおこない、最終的には、食堂の担当者とその上司が職務停止処分となったという。

給食費未納問題は、日本でもたびたびメディアで取り上げられている。もし仮に、日本の小学校で、未納を理由として、給食を没収するようなことがあれば、法的にどのような問題となるのだろうか。給食費を納入していなければ、没収されても仕方ないのだろうか。小池拓也弁護士に聞いた。

●日本の「学校給食」はどんな性質のもの?

「もしも学校給食が保護者と学校との間の契約により実施されているとすれば、民法が適用され、給食費支払いという義務が果たされない場合なら、原則として給食を支給しなくてもよいことになります(民法第533条・同時履行の抗弁)」

小池弁護士はこのように切り出した。となると、日本でも「没収」はあり得るのだろうか?

「しかし通常、公立小中学校の学校給食は、契約により実施されているのではなく、学校給食法に基づいて実施されています。

具体的には、学校給食法第4条が学校設置者(国や自治体)に対し、学校給食実施努力義務を課しています。これに基づき、各自治体が条例等で給食の実施方法を定めています。

一方、支払いについては、学校給食法第11条が給食費の保護者負担を定めています。これに基づき、各自治体が条例等で負担額を定めています」

●ペナルティは法令の定めによる

契約だった場合と比べて、どんな違いが生まれるのだろうか?

「このように学校給食が法令により実施される場合、民法の適用はなく、原則として(1)頼んでいなくても給食が出されるし、(2)頼んでいないからといって給食費支払義務を免れることはできない、ということになります。

そして、(3)給食費が支払われなかった場合のペナルティは、法令の定めたとおりとなります。したがって、法令にペナルティの定めがなければ、児童に給食を食べさせないということは、できないことになります」

法令のルールはどうなっているのだろうか?

「たとえば、国民健康保険法には、保険料を滞納した場合、保険給付の制限をするというペナルティが明記されています(第63条の2)。

これに対して、学校給食法にはそうしたペナルティは規定されていません。

むしろ、学校給食実施基準(文部省告示第90号)第2条で『学校給食は、当該学校に在学するすべての児童または生徒に対し実施されるものとする』とされていること、そもそも給食費の滞納は保護者の問題で子どもには何の非もないことからすれば、やはり滞納に対する『没収』は不可能ということになるでしょう」

たしかに、親のツケを子どもに支払わせる、というのはおかしな話だ。

「給食費の未納問題について、文部科学省は社会保障制度の活用や保護者の意識向上策などを求めています。しかし当然ながら、児童・生徒の『給食没収』は念頭にないようです」

この問題に対する行政の対応については、文科省が公表している「学校給食費の未納問題への対応についての留意事項」が参考になるという。関心がある人は、文科省のサイトで確認してみるとよいだろう。

(参照URL)

http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/attach/1294185.htm

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

小池 拓也
小池 拓也(こいけ たくや)弁護士 湘南合同法律事務所
民事家事刑事一般を扱うが、他の弁護士との比較では労働事件、交通事故が多い。神奈川県 弁護士会子どもの権利委員会学校問題部会に所属し、いじめ等で学校との交渉も行う。

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