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ダイヤモンド・オンライン連載企画/泥沼離婚闘争に嵌る前に押さえたい5つのポイント

ダイヤモンド・オンライン連載企画/泥沼離婚闘争に嵌る前に押さえたい5つのポイント

日本では年間23万5000組も離婚する、離婚大国(平成23年度推計値)。読者の皆さんのなかにも、離婚を経験している知り合いの一人や二人はいるのではないだろうか。しかし、一度法的に結ばれた二人の関係を、元に戻すには精神的にも肉体的にも、金銭的にも莫大なパワーがいる。離婚しないに超したことは無いが、もし、離婚すると決めたら、自分に有利になるように進めたい。そのための法律知識をお伝えしよう。       ■ケース1:夫のモラルハラスメントと暴力。「死んでほしい」とまで言われた妻    山岸さん(仮名、20代女性)に初めて会ったのは、蒸し暑い梅雨の6月だった。離婚の相談ということで、私の事務所に相談に訪れた山岸さんは、疲れきった暗い表情を浮かべ、訥々と話し始めた。    今から2年前、山岸さん夫婦は半年間の同棲生活の末に結婚。しかし、結婚した途端、夫の変化が始まった。   「結婚前までは、できない家事も夫なりに一生懸命やってくれました。それが、家事も、何もかもまったくやらなくなったんです」    家事をやらなくなったくらいは、どの家庭にもありそうなものだ。しかし、さらに話を聞いて行くと、山岸さんの夫の変わり様は、度が過ぎていることがわかった。山岸さんは続ける。   「ある日、夫から『物の言い方がきついからやる気がしない』と言われました。私も夫のように変わってしまったのかと反省し、言い方を改めました。でも、どんなに言い方を変えても、夫は怒るんです。そんな夫の様子を見ていて、『ああ、きっと、根本的に私自身が変わることはないから、いくら言い方を変えても、相手に伝わるものは変わらないのだな』と、自分を責めるようになってしまいました」     ■夫の暴力で心身はボロボロ。月に数回は救急車を呼ぶまでに……   「けれど、よく考えてみると、結婚した直後から夫の行動や発言は異常でした。仕事や家庭で自分の思うようにいかないと『お前と結婚してから仕事がうまくいかなくなった、仕事がうまくいかないのはお前のせいだ』って。なんでも私のせいにするんですよ!終いには「死んでほしい」って……泣 」    ここではすべてを書かないが、山岸さんが夫から浴びせられていた暴言は、「死んでほしい」だけではなかった。毎日のように、山岸さんは夫の言葉に傷つけられ、そして、無視されていた。    山岸さんの結婚生活は、苛立ちと落ち込み、自己犠牲、ケンカが絶えない日々だった。そして数ヶ月前から、夫は暴力を振るうようになっていた。    配偶者からの暴力は、肉体的だけではく、精神的に大きなダメージを与える。山岸さんは、とうとう原因不明の高熱、喉の病気、顔中の吹き出物、胃腸炎などに悩まされるようになり、心拍数が急激に上がってしまうことが増えていた。最近では、なんと月に数回の頻度で救急車を呼ぶまでに、症状は悪化していた。    そんな結婚生活でも、なんとか関係修復ができないかと、山岸さんは夫の暴力による地獄のような結婚生活を1年ほど続けた。しかし、もう、心身はボロボロ。絶えられなくなり、意を決して弁護士事務所に足を運んだのだという。    山岸さんの願いはただ一つ。離婚して地獄から抜け出し、生活費の補償を夫にさせることだ。     ■ケース2:浮気現場の写真を突きつけた妻。でも夫は「ラブホでビデオを見ていただけ」    離婚の原因トップはやはり浮気だ。坂口さん(仮名、30歳代女性)も夫の浮気に激怒し、離婚すると息巻いて私の事務所に駆け込んできた一人だ。秋終盤、昨年10月下旬だった。    席に着くなり、封筒から「証拠」を取り出し、見せてくれた。それは、探偵が撮った浮気現場の写真だった。   「結婚2年目で、もう浮気ですよ! 絶対に許せない。先生、これ、見てください。私、離婚できますよね、慰謝料、取れますよね?!」    写真に写っていたのは、坂口さんの夫と一人の女性。一見、ホンモノの夫婦に見えるほど仲睦まじい。レストランで食事をしている様子、それからラブホテルに入っていく様子が、はっきりと写っていた。   「これ、私とデートしたこともある店です……。このラブホテルに入る写真、主人にも見せました。問いつめたら、認めないんですよ。『ホテルではビデオを見ていただけだ』って。そんなことってあります? 男女がラブホテルに入ってビデオ見るなんて」    坂口さんの希望も、前述の山岸さんと同じく、慰謝料をもらうことだ。     ここまでの話を聞くと、山岸さんと坂口さんは、完全に夫に裏切られた側だ。結婚生活は、夫の暴力とモラルハラスメント、浮気によって踏みにじられた。    しかし、だからといって、即刻、夫婦関係を絶てるほど単純ではない。法的に婚姻関係を結んだ関係を解消するのは、経るべき手順があり、想像以上に時間がかかるものだ。恋人同志の学生カップルが、自然消滅するように分かれるのとはワケが違う。      離婚のおおまかな流れを表にまとめた。それでは、法的な視点から、上記2つのケースを解説していこう。     ■法が絡む闘争は「立証」が肝心。暴力やハラスメントの証拠とは      まず、山岸さんの場合。夫のモラルハラスメントと暴力が原因で、結婚生活が破綻したことは火を見るよりも明らかだ。民法770条1項5号の「婚姻を継続しがたい重大な事由」に当たる。    さらに、山岸さんの夫はモラルハラスメント、暴力という違法な行為により、山岸さんに精神的な苦痛を与えており、民法709条で規定されている不法行為にも当たる。    実際に、筆者が山岸さんの離婚調停手続きを行なったが、山岸さんの夫に対する離婚請求は認められ、精神的な損害賠償金=慰謝料を夫に支払わせることもできた。ちなみに、このケースでは慰謝料は300万円だった。また、離婚が成立するまでの期間、相応の生活費を支払わせることもできた。これは、民法760条に規定されている「婚姻から生ずる費用」(婚姻費用)に基づく。    しかし、山岸さんの主張が全面的に認められたのは、「立証」ができたから。法律が絡む闘争となると、もっとも重要視されるのが「立証」である。    山岸さんはそうではないが、なかには夫と離婚したいがために、夫から暴力など受けていないにもかかわらず「暴力を受けた」と嘘をつく女性もいる。    「立証」には十分な「証拠」が必要となる。山岸さんのケースでは診断書と写真があった。しかし、そのような証拠がない場合、夫が「俺は暴力を振るっていない」と言い張れば、暴力があったことは認められない可能性が高い。もし立証されるものがなければ、いくら涙ながらに配偶者のひどさを訴えてもまったく意味がない。     ■モラルハラスメントの認定には継続性があるかどうかが問われる    山岸さんのケースで「モラルハラスメント」という言葉を使ったが、これも立証されなければならない。モラルハラスメントとは法律家の世界では「侮辱的な言動などにより相手方に精神的苦痛・打撃を与えること」を言う。しかし、どの程度の侮辱的な言動をした場合に、離婚の理由として認められるか、いくら程度の慰謝料が認められるかについて、必ずしも基準があるわけではない。    たとえば、喧嘩をしたとき、どんな人でも「言い過ぎちゃったな」という経験はあるだろう。それがすぐに「モラルハラスメント」に当たるかどうか基準がなく、判断が難しいのと一緒である。    「モラルハラスメントを受けた」と言うためには、その継続性が必要だと考えられている。では、継続性をどう立証すればいいのか。それには、心療内科の診断書だけでは足りず、録音データや日記などが必要になる。    坂口さんのケースも、離婚請求と慰謝料請求は認められた。浮気は法律用語で言い換えれば「不貞行為」にあたり、民法770条1項1号に当たる。   「不貞行為」とは、婚姻関係にあるにも関わらず、他の異性と肉体関係を持つこと。坂口さんの場合、「夫が他の女性と一緒にラブホテルに入る」という決定的な証拠を持っていたため、裁判では有利になった。結局、写真を前に、夫は肉体関係を持ったことを認めざるを得ず、離婚請求と慰謝料請求が認められた。不貞行為の立証も、決定的な証拠が必要ということになる。     ■録音データや写真のほか日記やメモも有力な証拠    離婚は、なるべく避けたいもの。しかし、一度離婚を考えたら、裁判になったときに少しでも有利になるよう努めておこう。    できることはたくさんある。まず、「記録」をとる。言われたことについては、録音データが有効だが、それが難しい場合は日記、手帳への書き込みなどでも証拠になることがある。山岸さんの場合なら、モラルハラスメントの継続性を立証するために、具体的に何と言われたかをメモしておく必要がある。他にも、何日に、何があったかということを忘れないように書き記しておこう。    そして、できる限り「証拠保全」しておく。暴力を受けたら、すぐに病院に行き医師の診察を受け、殴られた跡の写真を撮っておくことが必要だ。浮気であれば、坂口さんのように決定的な写真などの証拠や、探偵の調査書が必要となる。    また、夫(妻)のメールもできる限り取っておくことが必要だ。自分の正当性を証明するための有効な証拠となる。以前、こんな例があった。    ある夫婦の離婚事案が調停でも解決せず、訴訟に発展した。そのとき、妻が夫から性的虐待を受けたと証言し、妻は訴訟を有利に進めようとした。    妻は「コスプレをさせられてのセックスを強要された」と主張。しかも、その証拠としてコスプレ衣装購入の領収書を提出してきた。ところが、夫の携帯電話に、妻からの「今日はコスプレをして待ってるね」という、むしろ妻側から誘った内容のメールが残っていたため、夫は妻の主張を退けることができ、自身の正当性と名誉を守ることができたということがあった。    離婚の場面では、相手方から、ケンカ時の暴言の録音データが出てくるなど、自分に不利な証拠が出てくることもある。離婚を考え始めたら自己管理と、相手の行動などを十分に注意して過ごすことが大切である。     ■財産分与は慰謝料と違い離婚原因に関係なく半々    慰謝料に関しては、離婚に至る状況のほか、子供の有無でも請求できる金額に差がでてくる。山岸さんと坂口さんの場合、いずれのケースでも、子供がいた場合は、慰謝料の他に、親権者となった親の方から養育費が請求できる。    また、2人で形成した財産、持ち家、預金があった場合には、それを分けるという財産分与が問題となる。「財産分与」は、民法768条に規定があり、夫婦2人で形成した財産を離婚の際に分けること。離婚の原因を作った方が、被害者側の配偶者に対して賠償金を支払うという「慰謝料」とは異なり、どちらが離婚原因を作ったかにかかわらず、とにかく2人で形成した財産を分けるというもの。だいたいは、半々で分けることが多い。    離婚に至るまでの期間については、内容によるが、山岸さんのケースでは、8カ月前後かかった。コストも内容によるが、両名とも慰謝料をもらうことができたので、コスト面の負担はなかったようだ。     ■心の準備こそが一番大事。押さえたい5つのポイント    離婚を考えたら、まずは相当な労力が伴うことを頭に入れておくこと。離婚の話し合いを始めると、なかには体調を崩して倒れる方もいる。多くの人が「こんなに大変なことだと思わなかった」と言ってため息をつくほどである。費用や証拠の準備よりも、実は心の準備がもっとも大切なのかもしれない。    最後に、数えきれないほどの離婚の現場を見てきた筆者から、離婚を考えたら注意すべきポイントを5つ、挙げさせていただく。    「離婚を考えたら注意すべきポイント」のまとめ 1.関係修復の努力を試みる。 2.離婚は労力がいることだと認識しておく。 3.下準備が整ってから離婚の話し合いをする。(例:金銭や離婚後の住居の確保 等) 4.証拠の保全(例:浮気ならば探偵に調査、例2:メールのやりとりを保護 等) 5.できれば自分から「離婚をしたい」と言わない。(例:話合いの流れで決める 等)    離婚は本当に大変なこと。一度、縁あって一緒になったのだから、離婚をするときは、結婚のときよりもよく考えてほしいと、筆者はおせっかいの気持ちを抱かざるを得ない。  

プロフィール

楠元 和貴
楠元 和貴(くすもと かずたか)弁護士 はまかぜ法律事務所
1972年熊本県生まれ。1994年3月慶応義塾大学法学部卒業、2000年、弁護士登録。横浜弁護士会所属。第二東京弁護士会消費者問題対策委員会副委員長、インターネット部会長、日弁連代議員等歴任。はまかぜ法律事務所所長代行。

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