国が認定した「消費者団体」が、企業から被害を受けた消費者の「代表」として、裁判を起こせるようにする制度が、新たに導入された。昨年末の臨時国会で、「消費者裁判手続特例法」が成立し、法的な枠組みは整った。3年以内の施行が予定されている。
アメリカの集団訴訟制度になぞらえて「日本版クラス・アクション」とも呼ばれるこの制度。集団的な消費者被害を一括救済できる制度として期待する声がある一方で、企業側からは「訴訟が乱発されるのではないか」という懸念もあがっている。
導入が決まった新制度は、いったいどんな仕組みのものなのだろうか。消費者問題にくわしい上田孝治弁護士に聞いた。
●特徴は「2段階型」の訴訟制度
「消費者被害は、同じような被害が多数発生することが多い反面、個々の被害金額が少ないことが多く、一人ひとりの被害者が訴訟を起こすことは、費用面や手続き面で非常にハードルが高いのが現状です」
こうした事情が、制度導入の背景になったようだ。新制度の特徴を教えてもらおう。
「新制度の特徴は、2段階型の裁判にあります。1段階目は『被害者みんなに共通する内容』が審理され、2段階目で具体的に『誰にいくら支払うか』を決めます」
1段階目では、たとえば、どんな内容が審理されるのだろうか?
「まず1段階目の手続きでは、国の認めた『特定適格消費者団体』が、事業者(企業)を相手に訴えを起こし、被害者みんなに共通する争点、たとえば契約条項が消費者契約法に違反して無効かどうかといった点を先行して審理します。
もし、この1段階目の訴訟において、『被害者に返金をしないといけない』という判断(判決・和解等)がされた場合、2段階目の手続きへ進みます」
2段階目はどんな内容だろうか?
「2段階目は、『簡易確定手続』といって、債権を確定させるための手続きです。
さきほどの消費者団体が、対象となる個別の被害者に通知をして、手続きへの参加を求めます。
個別の被害者は、消費者団体に代理権を与える形で2段階目の訴訟に参加し、債権が確定されれば、支払いを受けることになります」
2段階に分けることで、どんな利点があるのだろうか?
「被害者からすれば、1段階目の共通争点の判断が出た後で被害回復手続きに参加することができるので、被害回復のための費用面や手続き面での負担は、現状よりも軽くなります」
つまり、個々の消費者にとっては、大勢の決着がついた後に訴訟に参加することができるというメリットがあるわけだ。
●アメリカ「クラス・アクション制度」とは異なる
「この新制度は、アメリカのクラス・アクションに似た制度として、特に事業者側から濫訴のおそれを指摘する声もあります。しかし、それとは全く異なる制度です」
どんな点が異なるのだろうか?
「日本の新制度では、訴えを起こせるのは『特定適格消費者団体』という国が認定した団体に限定されます。対象となる損害も限定があり、いわゆる拡大損害(人身損害や慰謝料など)は含まれていません。
また、被害回復の対象となるのは、『2段階目の手続きに積極的に参加した消費者だけ』で、実効的な消費者被害回復という観点からすれば、不十分な点がいくつもあります」
ただ、新制度への期待は、こうした点を割り引いても、決して小さくないようだ。上田弁護士は次のように話していた。
「新制度は、これまで多くの消費者が泣き寝入りせざるを得なかった『小さな権利』に光を当てる画期的なものといえます。
積極的に活用されるべきですし、事業者も、消費者契約法などの法令を遵守して契約をすることがこれまで以上に求められるものと思います」