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「費用がいくらかかるのか分からない」 裁判は「時価制」の寿司店みたいなもの?
司法シンポジウムの第1部では「民事裁判を利用しやすくするために」というテーマで議論が行われた

「費用がいくらかかるのか分からない」 裁判は「時価制」の寿司店みたいなもの?

日弁連主催の司法シンポジウム「市民にとって本当に身近で利用しやすい司法とは―民事裁判と家庭裁判所の現場から―」が9月20日、東京・霞が関の弁護士会館で開かれた。

弁護士の数が増えたが、民事訴訟の件数は減り続けている。だが、社会における人と人のトラブルが減っているわけではない。消費生活センターなどには、訴訟件数を大きく上回る相談が寄せられている。なぜ、トラブルは多いのに、訴訟の数は減っているのか。そんな問題意識から、弁護士らが原因と対策を話し合った。

第1部「民事裁判を利用しやすくするために」では、弁護士ら8名がパネリストとして登壇。(1)現状分析(2)基盤アクセス(3)費用対策(4)時間対策(5)充実審理(6)判決・執行改革という6つのテーマについて報告がおこなわれた。

●裁判にかかる「時間と費用」が大きな課題

中村元弥弁護士(現状分析チーム)は、訴訟が減った原因として「時間」と「費用」をあげた。2011年に民事訴訟を利用した人にアンケートをした結果、裁判を避けたいと思った理由として「時間がかかると思った」「費用がかかると思った」と回答した人が、ともに70%を越えていた。

実際、裁判にかかる時間は、長引く傾向にあるという。中村弁護士は「裁判官1人当たりの手持ち件数の多さや法廷の不足が、原因になっている可能性が示唆される」と説明し、裁判官の増員と、法廷の増設の必要性を指摘した。

●「弁護士から市民にアクセスすべき時代」

曽場尾雅宏弁護士(基盤アクセスチーム)は、“弁護士へのアクセスのしにくさ”を課題の1つにあげた。たとえば、長崎県弁護士会による弁護士利用者のアンケートでは、「利用しやすくするために弁護士に必要なことは?」という設問で、最も多かった回答が「気軽に相談できるイメージ」だった。

パネリストの三屋裕子・元日本バレーボール協会理事は、「『弁護士は賢い人だから、こんなこと言うと馬鹿にされないか』という心のハードルもあるのではないか」と指摘していた。

解決策として、曽場尾弁護士は「地域包括支援センターや商工会のように、市民や企業の法的問題を把握している機関と連携すれば、相談が必要な市民や企業とつながることができる。今後は、弁護士から市民にアクセスしなければならない時代」と主張した。

宮崎隆博弁護士(時間対策チーム)は、裁判の期間短縮に向けた各裁判所の取り組みを紹介。準備書面などの提出期限の厳格化などが、一定の成果をあげていることを説明した。

新しい制度として、書面のやり取りをインターネット経由で行う「電子訴訟制度」が韓国で導入され、裁判の迅速化に一定の効果をあげていることも報告。「日本でも今後、もっと積極的に検討して良いのではないか」と述べた。

●裁判費用が「いくらかかるかわからない」

三屋氏は、裁判の費用に関して、「何にどれだけ費用がかかるのか、わからない。たとえば、初めて入った寿司店で、“時価”なんて言われると怖い。セットメニューのようなものがあると選びやすい」と率直な思いを語った。

この問題について、和田光弘弁護士(費用対策チーム)は、「費用負担の総額や安くするための方法、費用の調達方法について、(利用者が)相談できる状況にない」と現状を分析。「弁護士会が相談窓口をもうけるなど、無料で情報提供する仕組みを考えないと、利用者に申し訳ない」として、裁判費用の「透明化」が必要との考えを示した。

また、裁判費用を公的にサポートする仕組みについて、お金を返す必要がある「償還制」という現状の仕組みだけでなくて、返す必要のない「給付制」も検討すべきだとした。

●利用者は弁護士の「理解度」に不安を感じている

苗村博子弁護士(充実審理チーム)によると、利用者は裁判官や弁護士が、いま審理していることを本当に理解してくれているのかどうか、不安を抱いているという。

そうした利用者の「満足度」をあげるための手段として、苗村弁護士は裁判の争点を整理するため、集中して話し合う「集中争点整理」という手法を紹介した。

裁判官と原告・被告、その代理人がじっくりと向き合い、お互いにどんな主張をしているのかを一枚のホワイトボードに書き込んでいくことによって、どんな対立点があるのかを明確にする。このことによって結果的に「和解率の増加、控訴率の減少」が見込めるという。

●損害賠償額は「十分」か?

一方、せっかく勝訴しても、認められる損害賠償の額が十分でないと、利用者の満足感は高まらない。この問題について富田隆司弁護士(判決・執行改革チーム)は、今の損害賠償制度は、慰謝料や賠償額が低いと指摘する。

「セクハラの場合、米国などでは億を超える賠償額だが、日本では十数万円から、悪質なものでも数百万円となっており、抑止効果が期待できない」という。富田弁護士は、実際の損害額だけを賠償するという仕組みではなくて、制裁的な金額を加算する「抑止的損害賠償制度」を導入すべきだと主張していた。

パネリストの藤村啓弁護士(元東京高等裁判所部総括判事)はこうした報告に敬意を表したうえで、「すでに高いレベルにある日本の裁判制度を、改善してさらに高めることは簡単ではない。あせらずに、後の世代に責任の持てるような制度を着実に考え、ときには訂正しつつ取り組むことが必要」と意見を述べていた。

司法シンポジウム第1部の模様をまとめた動画はこちら。

https://www.youtube.com/watch?v=Z3EDfplP5-U

https://www.youtube.com/watch?v=5csdkE1Rn5c

(弁護士ドットコムニュース)

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