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「風邪」と診断されたけど、実は「肺炎」だった・・・医者に損害賠償を請求できるか?
医療において、セカンドオピニオンの重要性は高いといえるだろう

「風邪」と診断されたけど、実は「肺炎」だった・・・医者に損害賠償を請求できるか?

この夏、東京都内に住むTさんは、激しい咳や痰などの症状に襲われた。1週間も続いたので、近所の病院に行って、医者に診てもらったところ、レントゲン検査もないまま、「風邪」と診断された。

しかし、もらった薬を飲んでも一向によくならない。翌日、別の病院でくわしく検査してもらうと、胸部のレントゲン写真は真っ白。「肺炎」にかかっていることがわかった。

幸いなことに、入院するほどではなかったが、いまだに完治していないという。Tさんは「最初の病院はきちんと診察しなかった。しっかり問診と検査をしていれば、すぐに肺炎だとわかったはずだ」と憤慨している。

このような場合、患者は病院に対して、診療費の返還を求めたり、損害賠償を請求したりすることができるのだろうか。医療過誤にくわしい池田伸之弁護士に聞いた。

●症状があるのに検査をしないと「誤診」になる?

まず、肺炎を風邪と診断するようなケースは、「誤診」というべきなのだろうか。池田弁護士は次のように解説する。

「風邪は、4、5日もすれば熱が下がり、その他の症状もおさまってくるのが普通です。

もし38度台の高熱が4、5日以上も続いたり、激しい咳や痰があったり、鼻づまりでもないのに呼吸が苦しいという症状を患者が訴えているのならば、医者は肺炎を疑って、レントゲン撮影をするでしょう。

このような症状があるにもかかわらず、レントゲン撮影などの検査をしないまま、単なる風邪と診断すれば、『誤診』ということになります」

Tさんのケースでは、激しい咳や痰などの症状があったにもかかわらず、最初に診断した病院はレントゲン撮影をしなかった。「誤診」の可能性が高そうだ。

●肺炎の原因菌を特定するには時間がかかる

では、診療費の返還や損害賠償を請求することはできるのだろうか。

「診療報酬は成功報酬ではなく、診療行為に対する対価なので、誤診だったとしても、診療費が返還されるのが当然というわけではありません。

誤診によって、患者が亡くなったり、回復が決定的に遅くなったりした場合に初めて、慰謝料を含めた損害賠償や、治療の長期化に伴う診療費を請求することができます」

Tさんは翌日に別の病院で診察を受けて、肺炎だということがわかった。そのようなケースではどうなるのだろうか。

「たとえ最初の病院で、肺炎と診断されていた場合でも、医者はその原因菌を特定するための検査と、適正な抗生剤の選択をすることになり、数日を要します。そのため、結果が出るまでの間は、それまでの病態から考えて最も有効と考えられる抗生剤を、とりあえず選択して投与します。

したがって、肺炎の予後(見通し)が決定的に変わってしまうという段階であれば別ですが、今回のように診断遅れが1日しかないようなケースでは、診療費の返還や慰謝料を含めた損害賠償の請求は難しいでしょう」

最初は単なる風邪でも、あとから肺炎になることも多い。もし肺炎が疑われるのであれば、誤診を防ぐためにも、きちんと医師に自分の症状を伝えることが大切になりそうだ。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

池田 伸之
池田 伸之(いけだ のぶゆき)弁護士 池田総合特許法律事務所
愛知県弁護士会所属。企業法務などの企業案件の他、離婚、相続などの個人案件も多数担当しています。医療分野では、医療過誤事件の他、大学病院等の医療事故調査委員会の委員や厚労省の診療関連死調査のモデル事業の評価委員を務めています。

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