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一般市民が「量刑」決める「裁判員裁判」に問題あり? 最高裁の「破棄」をどうみるか
裁判員制度は、一般市民が裁判に参加することで、司法への理解と信頼が深まることを期待した制度だ

一般市民が「量刑」決める「裁判員裁判」に問題あり? 最高裁の「破棄」をどうみるか

裁判員の判断を裁判所はどこまで尊重すべきか――この問題に、最高裁がひとつの答えを示した。幼児を虐待死させ、両親が傷害致死の罪に問われた裁判員裁判で、求刑の1.5倍にあたる判決(懲役15年・求刑懲役10年)を出した1審・2審判決を「破棄」し、父親に懲役10年、母親に懲役8年の判決を下したのだ。

最高裁が裁判員裁判の判決を破棄して、自ら判決を下したのは今回が初めてだ。最高裁判決は、「裁判員裁判といえども、他の裁判の結果との公平性が保持された適正なものでなければならない」と述べた。

今回の最高裁判決は、今後の裁判員裁判のあり方に影響を与えるとみられている。弁護士たちは、今回の判決をどう見ているのだろうか。弁護士ドットコムに登録している弁護士に意見を聞いたところ、最高裁の判決を支持する声が多かった。一般市民による「裁判員」が量刑を決めるという制度そのものに問題がある、という指摘もあった。

●最高裁判決を「支持する」声が多い

今回の判決を支持するか、それとも支持しないか。弁護士ドットコムでは、以下の3つの選択肢から回答してもらった。

1 最高裁の判決を支持する→19票

2 最高裁の判決を支持しない→2票

3 どちらともいえない→2票

23人の弁護士から回答が寄せられた。<最高裁の判決を支持する>という意見が19人と8割近くを占め、<最高裁の判決を支持しない><どちらでもない>という意見は少数にとどまった。

そのうち、回答の理由についてコメントした17人の意見を以下に紹介する。(掲載順は、支持しない→どちらともいえない→支持する)

●最高裁の判決を支持しない

【上條 義昭弁護士】

「最高裁の判決は、裁判員裁判の否定であります。

いわば『職業裁判官の判断を優先しろ』ということを言っているようなものであります。個別事案ごと、事件の特殊性があります。素人の人たちが、当該事件について、真剣に悩んだ末に出した結論を、職業裁判官の築いた宣告刑の相場を尊重させて、否定することはおかしいです。

法定刑の範囲内で宣告しているのですから、何ら問題は無いことです」

●どちらともいえない

【秋山 直人弁護士】

「一般論として、裁判員裁判による判決が、これまでの量刑傾向からかけ離れているという場合には、これまでの量刑傾向とその理由を理解した上でなされた判決かどうか疑問が残るので、その点について十分な根拠の説明を求める、という最高裁の考え方は理解できます。

ただ、今回の最高裁判決を読むと、じゃあ最高裁はなんで父親については懲役10年、母親については懲役8年が妥当としたのか、十分説明しているとも思えないんですよね。

なので、賛成・反対どちらとも言えません」

【高岡 輝征弁護士】

「そもそも、裁判員裁判の肯定否定から問題になると思いますが、私は、賛成です。それを前提に裁判員裁判の趣旨とは?というと、やはり、旧弊打破にあると思います。

量刑相場による平等といえども、時代の変化と国民感情の反映による旧弊打破は、重視されるべきだと思います。

ただ、今回は、原審の判決理由が雑すぎでした。また、裁判所が同種事例を多数提示するなどしたのかといった評議の内容が、ブラックボックスのため、見えません。

また、判決が問題というよりは、求刑のほうが問題ともいえます。もし、検察官の求刑が、事案を考えるなどして、もっと重くしていたなら、求刑を上回るということも、少なくなるからです。

長い目で、法曹三者及び国民市民が、じっくりと裁判員裁判を煮詰めていくべき途中であり、いま直ちに、賛成反対はできず、どちらともいえないに1票を入れます」

●最高裁の判決を支持する

【萩原 猛弁護士】

「<裁判所が検察官の求刑を超えた刑を言い渡すのは違法である>

刑事裁判では、検察官が訴因を合理的な疑問を払拭する程度に証明できない限り、被告人は無罪となる。裁判所は、それを『審査』する役割を担っている。検察官は『有罪』の場合の『量刑』も主張・立証する。裁判所の当事者主義訴訟におけるこの役割に照らせば、裁判所は検察官の主張・立証する『量刑』が充分な説得力があるか否かを『審査』する役割に徹するべきである。

検察官が『そこまでの刑』しか求めていないなら、裁判所において、それ以上の判決を下すべきではない。何故なら、そうでないと、裁判所は、検察官の主張の『審査官』たる立場を超えてしまうからである。それは、当事者主義に反する。

元裁判官の堀内信明氏も『裁判所のチェックは、・・有罪の場合には、検察官の求刑意見に誤りはないか、判決段階まで続くわけで、この考えを貫く以上、裁判所が検察官の求刑を超える判決をすることは許されないということになるはずで、私はそのように考えてきました』と言っている(堀内信明「刑事裁判について」守屋克彦編著『日本国憲法と裁判官』〔日本評論社・2010年〕239頁)」

【池田 達彦弁護士】

「刑事手続における量刑判断の基本的枠組みは、犯した行為に対してどの程度の責任を負わせるべきかという視点が中心となり、かつ、他の事例との公平性が要求される点は、裁判員裁判導入後も変わりがありません。同程度の行為に対して、個々の事件ごとで量刑が大幅に異なっては、刑を受ける者のみならず、国民においても納得は得られないからです。

そのため、他の事例と比較して、量刑を重くしたり軽くしたりする場合には、公平性の観点から、その正当性を裏付ける根拠が必要となることは、裁判員裁判においても同様だと考えます。

一部報道では、最高裁が裁判員裁判における厳罰傾向に歯止めをかけた等の見解が示されていますが、正しくはありません。最高裁は、『これまでの傾向を変容させる意図を持って量刑を行うことも、裁判員裁判の役割として直ちに否定されるものではない。』としており、厳罰傾向それ自体を否定しているわけではないからです。

そのため、最高裁は、今回の事例で、懲役15年という量刑のみを捉えてこれを破棄したわけではないですし、裁判員裁判それ自体をないがしろにするものでないことに留意する必要があります」

【山岸 陽平弁護士】

「私は、裁判員裁判で出された判決であっても、不当なものは破棄されるべきであると考えます。

問題となる地裁の判決文です。

『同種事犯等の量刑傾向といっても、裁判所のデータベースに登録された数は限られている上、量刑を決めるに当たって考慮した要素をすべて把握することも困難であるから、その判断の妥当性を検証できないばかりでなく、本件事案との比較を正確に行うことも難しい』

『そうであるなら、児童虐待を防止するための近時の法改正からもうかがえる児童の生命等尊重の要求の高まりを含む社会情勢にかんがみ、本件のような行為責任が重大と考えられる児童虐待事犯に対しては、今まで以上に厳しい罰を科することがそうした法改正や社会情勢に適合する』

裁判所のデータベースの登録数が少ない罪種の場合は、過去の量刑の傾向を無視してもよく、その場合漠然と『社会情勢』で決めようという意味に読めます。これはあまりに雑な論理です。

よって、今回の1審2審の判決は、破棄されるべくして破棄されたものと考えます。

大阪地裁の裁判体が、もっと丁寧に検討して示していれば、重い量刑でも最高裁は維持したかもしれません」

【藤井 光男弁護士】

「事件の内容を詳細に知っている訳ではありませんが、裁判員裁判で検察官の求刑10年を5年も超える量刑の判決は、事件の内容に裁判員たちが感情的な受け止め方をした影響が大きいと思います。

また、一般市民が参加する裁判員裁判であっても、判決における量刑が重過ぎることは、裁判の公平、安定性からして、最高裁も言っているように、好ましくないと考えられます」

【工藤 啓介弁護士】

「裁判所は量刑も含めて検察官の主張の当否を判断すべきであるから検察官が主張もしていない量刑を勝手に判断すべきではない。裁判所が国民大衆のいわば風を先読みし、今回のように雰囲気で量刑を1.5倍にもすれば、同種他事件に比して被告人に著しく不利益となり、ひいては憲法14条に違反する。

問題の根本はアメリカの陪審と異なり、事実認定と刑の量定も裁判員裁判で決することにした制度の欠陥である。量刑にも時代の流れはあると思うが一時の感情やそのときの裁判員の構成でどうにでもなるのであればそれは決して国民の素朴な法感情を反映したものでもないし、被告人の更生にも何ら資することはない」

【居林 次雄弁護士】

「裁判員裁判では、素人感覚で、法的に安定しない刑を言い渡す可能性もありますから、今回のように、最高裁が是正するのはよろしいと思われます。

素人ではどうしても刑を軽くしたがりますから、厳しい態度で臨む必要性のあることもあります。

ただあまりしばしば、最高しでひっくり返されると、素人の裁判員の自信を無くさせる弊害も考えられますから、よほどひどい刑の不均衡があるときに限って、最高裁の大なたが振るわれるようにした方がよろしいと思われます」

【岡田 晃朝弁護士】

「量刑傾向が妥当でない場合に変更は必要でしょう。しかし、その変更に当たっては、十分な根拠の提示は当然必要であると思います。

裁判員裁判でも、職業裁判官による裁判であっても、人を裁く以上、特に重く裁くのでしたら、それに見合った根拠を必要とすることは当然ではないかと思います。

最高裁も裁判員を否定しているわけではなく、裁判員制度の評議の適正な運営に疑念を抱いているのであり、それについては、同感できるところもあります」

【諏訪 雅顕弁護士】

「刑事司法の本質は自由主義の理念(国家刑罰権の行使から被疑者被告人の権利を守ること)にあり、その限りにおいて、裁判員裁判の本質である民主的統制は自ずから限界があると言わなければならない。法的安定性や司法の公平性は被告人にとって極めて重要な利益であり、これを覆してまでも裁判員が自由に量刑を決められる訳ではない。

仮に裁判員が自由に量刑を決められるとすれば、そもそも量刑を一般国民が決めることの問題性(恣意性や感情論)が表面化することになり兼ねない。その点で、今回の最高裁の判断は妥当であると考える(判決の結論自体も相当であると考える)」

【和田 丈夫弁護士】

「裁判員裁判に『量刑』を導入したことがそもそも間違い。

裁判員の感情的量刑判断は公平性になじまないことは当初から予想されていたことで、多数の案件についての経験に裏打ちされた公平な量刑判断を裁判員に期待することに無理がある。

裁判員裁判制度を将来的に維持するならば、『量刑』とこれと不可分の『法令の適用』を外し、裁判員は『事実認定』に専念するように改正すべきであろう」

【中村 剛弁護士】

「裁判員裁判の判断が上級審で覆されると、『裁判員裁判の意味がない』『結局職業裁判官の判断が優先されるのか』などの批判が言われることがありますが、『市民の感覚を裁判に反映させる』ことと、『市民の感覚を絶対視する』ことは違います。

裁判員裁判であったとしても、その判断が絶対のものではなく、他との公平性が問われることは当たり前で、今回の判決はこの当たり前のことを言っているだけだと思います。

また、忘れられがちな点ですが、裁判員裁判の判決は、裁判員の判断だけでは出すことができず、職業裁判官のうち少なくとも1人はその結論に賛成しなければなりません。つまり、1審では、求刑を逸脱したこの判断を職業裁判官も支持したということです。

その意味では、今回の最高裁判決は、そういった職業裁判官の誤りを正したにすぎないともいえると思います」

【鐘ケ江 啓司弁護士】

「最高裁が述べるように、あえて他の被告人に比べて重い刑を科すというのであれば、それを是認できるだけの説得的な理由を示すべきです。理由を示すことを裁判員に求めるということは、決して裁判員裁判の否定にはなりません。

市民感覚を反映させるというのは、単に直感的な好悪の判断を反映させるべきということではないはずです。直感的な好悪の判断だけで自由に量刑を定められるのであれば、法廷は、被告人・検察官・弁護人が、裁判員に対して好感を持たれるように競い合う劇場になるだけです。

そういった裁判を国民が求めているとは思えません」

【伊藤 建弁護士】

「憲法14条1項は、法の下の平等を定めています。そのため、国家は、合理的な理由のない差別的取扱いをしてはなりません。

事情が似ている他の事件と比べて、合理的理由がないような重い(又は軽い)判決は、憲法14条1項に違反します。

裁判員制度は、国民の感覚を裁判に反映するものです。しかし、そのような『裁判員の感覚』も、法の下の平等に服します。具体的には、今回の『裁判員の感覚』は、量刑を重くする合理的理由の1つにはなりますが、それだけでは合理的な理由とはいえないのです。

今回問題とするべきは、裁判員ではありません。裁判員事件の判決をするには、最低1人の裁判官が賛成をしなければなりません。すなわち、最低でも1人の裁判官が、検察官の求刑の1.5倍を支持しているのです。

法の下の平等の意識を欠き、裁判員に迎合する裁判官が、このような判決を作り出してしまったのです。裁判官は、裁判員に流されず、憲法感覚を忘れずに判断をしてほしいものです」

【中村 晃基弁護士】

「量刑において何を重んじるかというのは、本来的には刑法における違法性の本質と密接に関わる問題であり、一般論として量刑において重視すべき要素が何かという問題は法律の専門家が判断すべきことです(英米法での陪審制は基本的に事実認定のみ)。

例えば、被害結果>行為態様>反省等の一般情状、といった量刑の重みづけは裁判員裁判によって変えていいものではありません。

また、法定刑自体が軽すぎる場合でも、『法定刑が軽すぎる』という市民感覚を発揮して、法定刑の上限ぎりぎりを適用することも許されません。予測可能性を担保するという罪刑法定主義の趣旨に反することになります。

上記のような考えが反映されるよう、検察官、裁判官、弁護人が量刑相場を意識した訴訟追行をしてきたわけです。

今回の最高裁判決は、裁判員裁判の問題点を指摘した良い判決と思います。

現状の裁判員裁判は、非常に問題の多い制度です。裁判員裁判を続けるのであれば、(1)対象事件を死刑・無期懲役が法定刑にある事件に限定する、(2)対象事件は犯罪事実を争う否認事件のみとする、(3)量刑判断については裁判員は関与しない、などの抜本的な改正を検討すべきでしょう」

【吉江 仁子弁護士】

「そもそも、裁判員に量刑まで決めさせる今の裁判員裁判制度には問題があると思います。

裁判員法の1条には、この法律の趣旨として、『国民の中から選任された裁判員が裁判官と共に刑事訴訟手続に関与することが司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資することにかんがみ』とありますが、果たしてそうでしょうか。

上記の『裁判員』のところに『警察官』とか『航空管制官』、『裁判官』のところに『職業警察官』とか『職業航空管制官』、『司法』のところに『警察行政』とか『航空行政』とか入れてみてください。

違和感を覚えませんか?

国民の理解や信頼を向上させるために、国民を手続きに参加させるというのでは、むしろ、司法は、国民に対する説明責任を放棄したと言ってもよいのではないでしょうか。

量刑判断は、妥当かつ公平性のあるものでなければならず、きわめて技術的なものです。

人生において初めて裁判に参加する裁判員に判断させるのは乱暴であって無責任なことだと思っています」

(弁護士ドットコムトピックス)

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