インターネット上の仮想通貨「ビットコイン」の取引仲介会社「マウントゴックス」のシステムを不正に操作して、口座の現金を水増ししたとして、フランス人のマルク・カルプレス社長が8月1日に、私電磁的記録不正作出・同供用容疑で逮捕された。
報道によると、カルプレス容疑者は、システム内にある自身の現金口座の残高を2回にわたり改ざんし、預金残高を総額100万ドル分、水増しした疑いがもたれている。カルプレス容疑者は「コインを購入できるかどうかを確認するテストだった」として、容疑を否認しているという。
●ビットコイン大量消失との関係は?
カルプレス容疑者は、2011年からマウントゴックス社を運営し、ビットコインと現金を交換するサービスを提供していた。一時は全世界の取引の約7割のシェアを占める最大手に成長した。しかし、2014年2月に同社は経営破たん。カルプレス容疑者は65万ビットコイン(230億円相当)がハッキングによって消失したと発表していた。
警視庁は、カルプレス容疑者の不正操作と、ビットコインの大量消失との関連も調べているという。顧客は、ビットコインを消失したことによって受けた損害の賠償を、カルプレス容疑者に求めることができるのだろうか。金融の法律問題にくわしい桑原義浩弁護士に聞いた。
●賠償が認められる可能性は?
「まず、確認しておきたいのは、損害賠償の請求は、基本的には会社(マウントゴックス社)に対して行うものです。カルプレス氏に対しては、役員としての責任追及(損害賠償請求)をしていくことになります」
桑原弁護士はこのように述べる。
「ビットコインの流出被害をどう考えるかという点について、議論はわかれるところです。
しかし、最終的には通貨に換算して決済するシステムのようですから、損害額を算定して賠償を請求することは可能だと思います」
仮に「ハッキング」のせいだったとしても、損害賠償の請求は可能だろうか。
「ハッキングを容易に許してしまうような、システム管理上の問題があったとすると、カルプレス氏がそのことを認識していながら放置していたという事情があれば、仮にハッキングを受けた場合でも、役員としての責任を免れず、損害賠償請求が認められる可能性があると思います。問題は、そのようなシステム上の問題があったといえるかどうかでしょうね」
●因果関係の証明がハードルに
「個別の顧客が、カルプレス氏に対して直接、損害賠償を求める場合には、『カルプレス氏の行為によって自分のビットコインが消失し、被害を受けた』という因果関係を証明する必要があります。
ただ、カルプレス氏がどういうことをしていたのか、その証明は、通常は容易ではないでしょう。警察の捜査による事案の解明が期待されます。
また、ビットコインについては、所有権としての引き渡しの対象にならないという判決が8月5日、東京地裁で出ました。
判決の詳細はまだ確認していませんが、損害賠償を請求するにしても、『ビットコインそのもの』の引き渡しを認めなかった今回の判決がどこまで影響するのか、今後注目するべきポイントでしょう」