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独禁法違反のスーパーに「課徴金12億円」 納入業者の「無償派遣」はどこまでOK?
スーパーや量販店に、メーカー側が従業員を派遣することがある

独禁法違反のスーパーに「課徴金12億円」 納入業者の「無償派遣」はどこまでOK?

北海道でスーパーを展開するラルズが、納入業者に従業員の無償派遣などを強要していたなどとして、公正取引委員会から約12億8000万円の課徴金の納付を命じられた。独占禁止法が定める「優越的地位の濫用の禁止」に違反したということだが、同様のケースでの課徴金としては、家電量販店エディオンが課された約40億円に次ぐ金額だという。

公取委によると、ラルズは遅くとも2009年ごろから、取引上優位な立場を利用して、新規出店や改装オープンの際に、納入業者の従業員を無償で派遣させて商品の陳列をさせたり、納入業者に協賛金を支出させたりしていた。また、紳士服特別販売会と称するセールの際に、あらかじめ数量を決めて、納入業者にスーツなどを購入させていた。

今回は、力関係で優位にたつスーパーが、メーカーなどの納入業者に従業員の無償派遣などをさせていたことが問題とされた。しかし、量販店やスーパーでは、メーカーの人が販促のため働いている光景をしばしば見かける気もする。

では、同じようにみえる「無償派遣」でも、独禁法違反にあたる場合とそうならない場合があるのだろうか。また、その境界線はどこにあるのだろうか。企業法務にくわしい鈴木謙吾弁護士に聞いた。

●すべての「無償派遣」が違法というわけではない

――スーパーや量販店への『無償派遣』は法律的に許されるのか?

「そもそも大前提として、どのような条件で取引するかは、当事者間で自由に決めることができます。これを『契約自由の原則』といいますが、『納入業者に従業員を無償で派遣させること』も、基本的に当事者間で自由に決めてよい事柄であり、『無償派遣』が直ちに独占禁止法に違反するというわけではありません。

『無償派遣』というと、納入業者にとって一方的に不利益なことのように思えるかもしれませんが、納入先での売上増加や消費者市場の動向を直接に把握することができることなどからすれば、納入業者の利益になる場合もあります。このような販売促進の効果がある場合には、『無償派遣』を独禁法違反として処分する必要がないことは明らかです」

――そうすると、今回のケースではどこが問題だったのか?

「原則は自由といっても、『無償派遣』を事業者間の自由に任せすぎてしまうと、『下請けいじめ』の温床になる危険があります。そこで、『下請けいじめ』を防止するために、独禁法は、『優越的地位の濫用の禁止』というルールを設けています。今回のケースもこの点が問題になっています。

この点について、公正取引委員会は、『優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方』というガイドラインを公表しています。それによると、『無償派遣』が独禁法違反になるのは、自らの優越的な地位を利用して、自己の利益にしかならない業務を行うよう取引の相手方に要請し、その従業員等を派遣させるような場合とされています。

これを納入業者の視点から考えると、納入業者が『無償派遣』に何らかの利益を見出し、自らの意思で派遣したと言えるかが重要なポイントとなります。さらに『自らの意思で』と言えるかどうかは、納入業者が形式的に同意していただけでは足りず、客観的に第三者から見ても十分に正当な理由があると言えるかがポイントとなるでしょう。

今回のケースでは、『無償派遣』以外にも様々な点が問題とされていますが、『無償派遣』について言えば、新規出店や改装オープンの際に、納入業者の従業員を無償で派遣させて商品の陳列をさせていたというのですから、営業していない時の作業などが客観的に見て納入業者の販売促進とは関係ないものと評価され、独禁法に違反するとされたのでしょう」

今はモノが売れない時代であり、納入業者だけでなく販売店も悪戦苦闘している。そうだとしても、納入業者に利益のない「無償派遣」を要請するのは度が過ぎているということなのだろう。「無償派遣」がよくあることとはいえ、自己の有利な立場を悪用すると、とんでもない制裁が待っていることは知っておくべきだろう。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

鈴木 謙吾
鈴木 謙吾(すずき けんご)弁護士 鈴木謙吾法律事務所
慶應義塾大学法科大学院教員。東京弁護士会所属。

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