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グノシー・木村共同代表が退任した理由? 「競業避止義務」とはいったいなにか
会社のさまざまな判断を下す取締役には、「権利」だけでなく「義務」も課せられている

グノシー・木村共同代表が退任した理由? 「競業避止義務」とはいったいなにか

スマートフォン向けのニュースアプリ「グノシー」を展開するベンチャー企業・グノシー(Gunosy)の共同代表をつとめていた木村新司氏が、ひっそりと同社代表取締役を退任していたことが、9月に入って明らかになった。

グノシーは木村氏の退任理由を「任期満了」と説明したが、ウェブメディア「Tech Crunch」は9月4日、「競業避止義務をめぐるトラブルを回避するためではないか」と推測する記事を出した。

記事では、その根拠として、次のような点を挙げている。

(1)木村氏は、自ら立ち上げたスマートフォン向けアド(広告)ネットワーク事業会社「アトランティス」(現Glossom)を2011年に「グリー」に売却した後、2013年9月に同社の取締役を辞任した。

(2)木村氏はその後2013年11月にグノシーの代表取締役に就任した。グノシーは2014年7月に、スマートフォン向けのアドネットワーク事業を始めたと報じられた。

(3)取締役が退任する際は、競業避止義務を2~3年負うことがほとんどだ。

この記事がいう、「競業避止義務」とは、いったい何なのだろうか。そして、今回のようなケースでは、木村氏が「競業避止義務」を負うと考えるべきなのだろうか。企業法務にくわしい今井俊裕弁護士に聞いた。

●取締役在任中には「制限」がある

「たとえば、A社の取締役が、在職中にA社と競業する商売を社外で行うためには、A社に承認してもらう必要があります。

したがって、仮に、アドネットワーク事業を行うアトランティス社の取締役である木村氏が、同社に在任したままグノシー社の代表取締役にもなり、さらにグノシー社がアドネットワーク事業を始める、というケースなら、木村氏はアトランティス社に承認をもらう必要があります」

なぜ、そんな制限があるのだろう。

「取締役は、株主の信任を受けて会社の経営を任されます。すると当然ながら、その会社の企業秘密に全面的かつ継続的に触れる地位にあります。それらを正確に把握し活用しなければ、会社経営という大役は果たせないからです。

しかし同時に、取締役としての立場に基づいて知った企業秘密、たとえば、その会社のノウハウや顧客情報を悪用することも現実には可能です。

たとえば顧客を奪って、在職中に自分自身や、自分の息のかかった企業などの利益を図ることができてしまうわけです。そうした場合、会社は取引機会を奪われて、損害を受けるおそれがあります」

もし、取締役が勝手に競業を始めたら、どうなるのだろうか?

「仮に、制限に反して、その会社に損害を与えれば、その取締役には賠償義務が発生します。

しかし、これはあくまで取締役在職中の義務です。会社法は、退任した取締役にこうした義務を明文では課していません」

●「退任後にも競業するな」というためには「誓約」が必要

ということは、会社法上は、取締役を退任した後すぐにでも、別の会社で競業ができるということになる。

「そういうことです。元の会社がそうした行為を防ぎたければ、退任する取締役に対して、『秘密保持義務』や『競業避止義務』を誓約させる方法が考えられます。

そのような誓約が破られたのであれば、誓約に違反した責任を問うことができます。しかし、今回のケースでは、こうした誓約があったのかについては、何とも言えません」

なぜ、そのように考えるのだろうか。

「IT事業は買収と起業が激しい分野です。実業家が、かつて売却した事業と同じような事業を始めたり、そうした事業を行う企業の経営に加わることは珍しくありません。

まして今回話題になっているのは、自らが立ち上げた会社をM&Aで大企業に売却した方ということですから、退職時に競業避止の誓約をするかどうかは、報道されている情報からだけでは何とも言えません。

仮に何らかの競業避止義務を誓約しているとすれば、アトランティス株の譲渡先であるグリーとの間で結んでいることになるかもしれませんね」

今井弁護士はこのように述べていた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

今井 俊裕
今井 俊裕(いまい としひろ)弁護士 今井法律事務所
1999年弁護士登録。労働(使用者側)、会社法、不動産関連事件の取扱い多数。具体的かつ戦略的な方針提示がモットー。行政における、開発審査会の委員、感染症診査協議会の委員を歴任。

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