ヨーロッパ各国の難民に対する待遇への抗議として、オーストリア人アーティストのラウル・ハスペル氏が発表した「1分間の沈黙」が話題になっている。沈黙を収録した「楽曲」は8月20日、発売前にも関わらず、iTunesの同国版チャート1位になった。
AFP通信によると、ハスペル氏が制作した「Schweigeminute(1分間の沈黙)」は、1分間の沈黙が収録されている。作品の収益はオーストリア・ウィーン南方の難民センターへの支援に充てられるという。日本では250円で購入することができる。
これまでも「無音」の作品については、ジョン・ケージが作曲した「4分33秒」などもあったが、音がまったくないものが楽曲として扱われるのは不思議な感じもする。そんな無音の作品は、法律的にも「著作物」として扱われるのだろうか。自らも音楽活動を行っている高木啓成弁護士に聞いた。
●アイディアは保護されない
「著作物とは、思想または感情を創作的に表現したものとされています。『無音の作品』ということになると、その作品が『思想または感情を創作的に表現したもの』とはいえず、『著作物』には当たらないと考えられます」
高木弁護士はこのように述べる。しかし、難民センターの支援のため、「無音」の作品にタイトルを付けて発表することには独創性があるとも思える。このようなアイディアは保護されないのだろうか。
「著作権法は、『思想・感情』の表現を保護するものであり、『アイディア』自体を保護するものではありません。
無音のものにタイトルを付けて作品にしようというのは『アイディア』にすぎず、『思想・感情』が表現されているとはいえません。やはり、著作権法で保護される『著作物』には当たらないでしょう」
●一音だけの作品は著作物?
それでは、どの程度の音楽から「著作物」に該当するのだろうか。たとえば、一音でも音が入っていれば、「著作物」に該当するのだろうか。
「これはとても難しい問題ですが、結局は、『思想または感情を創作的に表現したもの』といえるかどうかが基準になります。
あまりに短いフレーズや、ありふれた表現では『創作的』といえないので、『著作物』には当たりません。ですので、一音だけの作品は『著作物』に当たりません。
他方、音楽に作曲者の個性が表現されていて、『創作的』といえる場合には、その作品は『著作物』に当たります」
具体的には、どう判断するのだろうか。
「たとえば、1小節程度のメロディだと、どうしてもありふれた表現になってしまい、『創作的』とはいえず『著作物』には当たらないことが多いと思います。
ちょっと専門的になってしまうのですが、コード進行も、音楽理論上、どうしても一定のパターンにならざるを得ないので、コード進行自体は『著作物』とはいえないと言われています。
同様に、ギターのリフやベース・ラインなども、コード進行との兼ね合いで表現の選択の幅は限定されてしまいます。
ですので、よっぽどの独創性がない限り、これら単独では『著作物』には当たらないと考えられます。
しかし、実際の音楽作品の多くは、これらが組み合わさって、形を変えて、その作曲者の個性が表現されています。そのような作品になっていれば、『著作物』に該当することになります」