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未公開映画の脚本が「サイバー攻撃」で流出――その情報の報道はどこまで許される?
映画の脚本などの情報がサイバー攻撃によって流出した

未公開映画の脚本が「サイバー攻撃」で流出――その情報の報道はどこまで許される?

映画「007」シリーズの次回作の脚本など、米国の映画製作会社「ソニー・ピクチャーズ・エンターテインメント」の内部文書がサイバー攻撃によって流出し、大騒ぎになっている。流出した情報には、映画の脚本のほか、映画出演者の報酬や会社幹部がやり取りしていたメール、社員の連絡先や健康記録などが含まれていると報じられている。

同社は被害の拡大を防ぐため、「流出文書に基づいた記事」を書かないよう、ニュースメディアに要請した。ブルームバーグによると、要請文では、流出情報を入手しても記事にしないで破棄するよう、メディア側に求めている。要請に応じず情報を公表した場合は「損害や損失の責任を問わざるを得ない」としており、訴訟も辞さない構えだ。

たしかに、流出情報の内容の記事化は、企業の傷口を広げる側面があるといえるだろう。だが、メディア側にも「報道の自由」があるはずだ。もし同じようなことが日本で起きた場合、流出情報に基づく報道は許されないのだろうか。情報セキュリティをめぐる法律問題にくわしい福本洋一弁護士に聞いた。

●報道目的なら許されることも

「そもそも情報は、実体のない無体物ですから、所有権の対象になりません。そのため、排他的・独占的に情報の利用が保護されるわけではなく、情報の利用は原則として自由です。

ただし、著作権法における著作物や不正競争防止法における営業秘密、個人情報保護法における個人情報等のように、『情報の内容』に応じて、法的な保護や取り扱いの規制が定められているものもあります」

福本弁護士はこのように述べる。では、今回のような情報流出が日本で起きた場合、その情報に基づいた記事を書くことは問題ないのか。

「今回、ソニー・ピクチャーズ・エンターテインメントから流出した情報のうち、映画の脚本等の情報については、『著作権』の侵害ではないかという点が問題となります。

ただし、『時事の事件』を報道する目的ならば、その事件の過程で見聞きされる著作物を利用できると、著作権法41条で認められています」

報道目的なら、著作権で保護された情報も利用できる場合があるわけだ。

「はい。ただし、それは『報道の目的上正当な範囲内』での利用に限定されています。

たとえば、流出した『007』シリーズの次回作の脚本の全文を掲載して報道することは、『報道の目的上正当な範囲内』とはいえず、著作権の侵害にあたる可能性が高いでしょう」

●「節度ある報道」が望まれる

その他の情報についてはどうだろう。

「映画出演者の報酬や社員の連絡先・健康記録に関する情報は、映画出演者や従業員の『プライバシー情報』にあたる可能性があります。

また、幹部がやり取りしていたメール等には、企業の『営業秘密』が含まれている可能性があります。

営業秘密の管理状況にもよりますが、ハッカーの攻撃によって流出した営業秘密であることを知りながら使用・開示した場合には、不正競争行為として損害賠償の対象となるおそれがあります」

流出した情報を報道することは、情報の内容にもよるが、いろいろと問題になるケースもあるようだ。

「これらの企業に対する権利侵害が成立するか否かに関係なく、流出した情報が公表されることによる二次被害を防ぐことが重要です。

企業の信用や営業秘密、社員等の名誉やプライバシー等への影響に配慮した節度ある報道がなされることが望まれるでしょう」

福本弁護士はこのように話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

福本 洋一
福本 洋一(ふくもと よういち)弁護士 弁護士法人第一法律事務所
弁護士法人第一法律事務所パートナー弁護士、システム監査技術者。2002年同志社大学大学院修了、03年弁護士登録。IT関連法務、個人情報・営業秘密等の情報管理体制の構築・漏洩対応等を取り扱っており、日本経済新聞社の2015年度「企業が選ぶ弁護士ランキング・情報管理分野」にも選出されている。

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