矢田 健一 弁護士 インタビュー
弁護士を目指したきっかけ
司法試験合格後に弁護士を目指すこととした直接のきっかけは、修習中に当時訴訟中だったハンセン病事件を知ったことです。修習でご指導いただいた弁護士がハンセン病事件に取り組まれていました。何度か元患者さんのいる療養所に連れて行ってもらったり、元患者さんのお話をお聞きしました。
元患者さんのお話を聞いて、私は何も知らな過ぎたと思いました。何の落ち度もなく、たまたま病気になっただけの人々が無理やり施設に連れて行かれて、中では断種や堕胎の手術が行われていました。自分たちの知らないところで平成になっても行われていたということを知って衝撃的でした。
もう一つは、私自身当初は怖い病気にかかっているから隔離されても仕方ないのではないかという感覚もありました。しかし、調べてみると施設にいた方々は患者さんではなく、”元”患者さんなのです。特効薬があるのに施設から出られないという状況になっていました。
元患者さんたちは子どもができないので、施設から引き離されてしまうと戻るところがありませんでした。ですので、自由だと言われても戻れず、山奥や離れ小島に一生隔離されてしまっていました。ハンセン病の元患者さんたちの話を聞き、被害にあっている人たちに直接力になれるのが弁護士だと思ったので、弁護士になることにしました。
今までの経験と現在の仕事内容
地方の弁護士なので、特定の分野に特化した仕事はしていません。依頼のあった事件は、何でも引き受けています。
現在は、顧問先との関係で、引き受ける事件の多くが交通事故です。
交通事故に関しては、被害者側・加害者側を問わず、最近は毎年50件程度の事件を受任しています。昔はトラブルが表面化していなかったのだと思います。交通事故自体はあったのですが、以前は権利意識があまり強くなかったのか、保険会社から勧められることを鵜呑みにしてしまっていました。
しかし、今は金額の大きさや怪我の大きさに関わらず、裁判になる案件は増えています。結果として被害にあっているから救われなくてはいけないということもありますし、逆に被害を与えてしまった側だったとしても「そこまで言われなくてはいけないのか」という状況・感情もあります。ですので、そうした方々に協力できるということはありがたいことだと思います。
弁護士としての信条・ポリシー
自分が無知であることを自覚して仕事をするようにしています。
弁護士になったばかりのころは、背伸びをして、何でも知っているふりをしていました。ただ、世の中の出来事のうち、私が知っていることなど極僅かですし、専門であるはずの法律についても、知らない法律のほうがずっと多いです。
ですから、事件処理にあたっては、依頼者や関係者に教えていただく姿勢で取り組んでいます。
実際に法律は手段に過ぎません。例えば、交通事故ならシートベルトをしていたかどうかという問題と関連してシートベルトの構造などが問題になります。そうした専門的なことは弁護士にはわからないことが多くあります。そうすると自動車メーカーに問い合わせたり、ご本人に詳しく話を聞いたりする必要があります。
また、弁護士だからといって法律が全部頭に入っているはずがありません。ですので、何か問題が出てくる度に調べるということが大切になります。例えば、ガスの業者さんのお話を聞いているとガスの取り扱いに関する法律や政令などはガスの取り扱い業者の方はわかっていても弁護士にはわからないことが多々あります。実際にガスのトラブルが生じたりすると本人や会社に聞くしかありません。そうしたことから依頼者に聞く姿勢を意識しています。
法教育について
私の考える法教育は、自分で考え、自分の意見を伝えられる能力を身につけること、あわせて、相手の考えを理解し、受け入れられる能力を身につけることだと思っています。そのような能力が、法律的なものの見方だと考えています。法律の文言をただ覚えることではありません。
社会には、いろいろな考え、立場の人がいて、そのいずれが正しいのかを判断することは簡単ではありません。そのような社会の中で「生きる力」をつけることが法教育だと考えています。
少子化の影響などで、人間同士のコミュニケーションをとる機会が減っています。その結果、独善的になったり、内にこもったりしてしまう結果になりやすい状況です。
法教育は、難しい法律理論を学ぶ場ではなく、みんなが仲良くしていける社会を作るものだと考えています。
小中学生向けの法教育
何かテーマを作って生徒さんが自分で考える授業を作ります。例えば、高層マンションが建ってしまったらマンションの開発業者さんと近所の日陰になってしまう人たちの利害をどのように調整するのかというテーマを与えて、クラスの中でグループ分けをし、それについてみんなで話し合っていいルールを作ってみようといったような進め方をしています。
テーマを作る際には、わかりやすく小中学生に身近な話題ということに加え、生徒さん一人一人が考えられるテーマを意識しています。法律は数学のように一つの答えしか出てこない学問ではないので、何が正しいというわけではなく、色々な考え方が出てくるようなものにしようとしています。色々な結論をそれぞれの生徒さんが考え、考える力をつけていってもらえればと思っています。
また、授業は生徒さんが自分で考えて、それを周りに伝えるということが基本になります。それと併せて、世の中の価値観というものは色々ありますから、相手の話を最初から聞かないというのではなく、相手の言い分をよく聞いて、問題を解決し、みんな幸せになれるという能力を養えればと思っています。解決する能力がなければ、いきなりケンカになってしまったり、大きな話になれば戦争になってしまいます。
昔は小さなころから兄弟や従兄弟がたくさんいたいので、その中でトラブルを解決するということに触れていました。ところが、今は一人っ子が増えています。親と子どもだと本人間の問題の解決はありません。そうしたことを家庭や地域で教えられませんので、トラブルになりやすい社会になりつつあります。それをきちんと解決できるようにしたいと思っています。
実際には解決するということは難しいことです。小さなころから解決するためのスキルを身につける訓練を受けて大人になる人とそうでない人では、トラブルに直面した時の対処の仕方が異なります。そういうことは訓練しなくてもできるという思い込みがどうやらあるようなので、訓練していないとできないということをきちんと教えていければ幸いです。