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「恋しくって恋しくって」川端康成のラブレター公開――故人にプライバシーはないの?
思いを寄せる人にラブレターを書いた経験がある人は少なくないだろう

「恋しくって恋しくって」川端康成のラブレター公開――故人にプライバシーはないの?

「恋しくって恋しくって早く會(あ)わないと僕は何も手につかない」「必ず迎えに行く」――ノーベル賞作家・川端康成がつづった未投函の「ラブレター」が7月16日から、岡山県立美術館で公開されている。川端が暮らしていた神奈川県鎌倉市の家から発見されたものだ。

手紙は、川端が一度は結婚を誓い合った女性に向けた内容。他にも、この女性から届いた手紙10通が見つかっており、一部は展覧会で公開されるという。研究者は「重要な資料」として、その発見を喜んでいる。

しかし、ラブレターは公開されることを前提に書かれていないだろう。まして、投函せずにしまっておいたものならば、なおさらだ。ネット上では「そっとしておいてやろうぜ」「こんなに恥ずかしいことはない」など、手紙の公開について疑問の声もあがっている。

すでに亡くなった人の手紙は、生前に本人の許可をもらっていなくても、公開していいものなのだろうか。プライバシーの問題にくわしい梅村陽一郎弁護士に聞いた。

●プライバシー権は「その人限り」の権利

「プライバシーの権利は一身専属といわれています。一身専属とは『その人限りの』という意味です。権利譲渡されることも、相続されることもありません。その人が亡くなれば、プライバシー権は消滅します。これは、一般人でも著名人でもかわりません」

そうなると、今回の川端康成のラブレターについては、どのように考えればよいだろうか。プライバシー権が消滅するということは、手紙をどう扱っても法的には問題ないということだろうか。

「そうではありません。今回のラブレターは『著作物』に該当する可能性があります。

著作物だという前提で検討すると、川端康成が亡くなったのは1972年で、著作権は作者の死後50年間存続しますから、まだ保護されている期間内です。

したがって、たとえば、ラブレターを出版物に掲載する場合には、現在の著作権者――作家の相続人でしょうか――の許諾が必要となるでしょう」

すると、著作権者の許可があれば、公表できる?

「基本的にはそうですが、さらに、その手紙が未公表の著作物であれば、それを公表する権利(公表権)について、一定の配慮が必要です。

公表権は基本的に一身専属の権利で、著作者の死亡により消滅します。しかし、著作者が亡くなった後も、著作者の意を害しないと認められる場合を除いて、『その人が生きていれば著作者人格権の侵害となったであろう行為をしてはいけない』というルールがあるのです(60条)。

こうした行為に対しては、著作者の遺族らが、差止や名誉回復等の措置を求めることができます(116条)」

結局のところ、故人が心を込めて書いたラブレターを公表したいのであれば、著作権の相続人や遺族など、関係者たちから許諾をもらうべきと言えそうだ。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

梅村 陽一郎
梅村 陽一郎(うめむら よういちろう)弁護士 弁護士法人リバーシティ法律事務所
弁護士法人リバーシティ法律事務所 代表社員 千葉県弁護士会、千葉商科大学大学院客員教授、千葉大学法科大学院非常勤講師 著書「図解入門ビジネス最新著作権の基本と仕組みがよ~くわかる本」など

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