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美濃加茂事件「初公判」傍聴記――潔白主張の30歳市長と検察が「全面対決」
藤井市長の第1回公判が開かれた名古屋地裁前に集まった報道関係者たち

美濃加茂事件「初公判」傍聴記――潔白主張の30歳市長と検察が「全面対決」

受託収賄などの罪で起訴された岐阜県美濃加茂市の藤井浩人市長(30)に対する初公判が9月17日、名古屋地裁で開かれた。1年前の初当選時、「全国最年少市長」として注目された藤井市長だけに関心は高く、裁判所には開廷の1時間以上前から傍聴券を求める人の列ができた。77の一般傍聴席に対して277人が抽選に臨み、満席の法廷で裁判が始まった。

入廷した藤井市長は黒のスーツに薄緑色のネクタイ姿。3週間あまり前の保釈時はかなりやつれた様子だったが、直後から公務にも復帰し、精悍な印象を取り戻していた。裁判長に職業を問われると「美濃加茂市長です」とはっきり述べ、その後は細い眉を吊り上げるような厳しい表情で検察側の冒頭陳述などに耳を傾けた。(ジャーナリスト・関口威人)

●検察は「現金授受の様子」を具体的に説明

検察側の主張は、贈賄側被告人である浄水設備販売会社「水源」の中林正善社長の初公判(9月8日)に沿った内容だった。「現金の授受」があったというファミリーレストランでの会食について、検察側は次のように説明した。

中林社長が「浄水プラントの資料を入れたクリアファイルと現金10万円を入れた封筒を、さらに大きな封筒に入れて用意」した。そして、会食の同席者がドリンクバーに行くため席を外している間に、中林社長は、現金入り封筒を引き出して藤井市長(当時は市議)に見せ、「少ないですけど、これ足しにしてください」と言って渡した。それを、藤井市長は「すいません、助かります」などと言って受け取ったのだ、と。

さらに検察側は、別の日に居酒屋で中林社長から藤井市長に20万円が渡った、としている。この計30万円の現金について、検察側は「浄水プラント導入を取り計らったことに対する報酬」だったと強調した。中林社長は自身の公判でこうした意図を認めている。

●弁護団は「ヤミ司法取引」の疑いを指摘

これに対し、藤井市長は「現金を受け取ったという事実は一切ない」と全面的に否定。検察側が現金授受の生々しい場面を読み上げても動じない様子で聞き、こう反論した。

「浄水プラントは美濃加茂市にとって有意義な事業であると考え、市議として導入に向けて活動していたもので、中林に依頼を受けたから動いたわけではない」「こうした活動に疑いをかけられれば、新技術の導入や地域独自の政策にブレーキをかけることになる」

弁護団の郷原信郎弁護士は、ファミリーレストランでの席がドリンクバーから3メートルほどしか離れておらず、同席者が席を立っても「振り向けば容易に見える位置」で、現金のやり取りがあれば気づかないはずはないなどと主張。こうした現場の状況を警察も検察も当初は把握しておらず、起訴後の公判前整理手続きで弁護人の指摘を受けてから、実況見分が行われたことを明らかにした。

さらに、中林社長の供述が不自然に変遷していて信用性に欠けている点や、計4億円以上もの融資詐欺の疑いがありながら、実際に捜査されたのはそのうちの2100万円分でしかなく、他の詐欺事実を不問にする代わりに美濃加茂の事件について当局側に都合のいい供述をする「ヤミ司法取引」があったのではないか、という点も厳しく追及した。

次回の公判では、中林社長の証人尋問を通じて、検察と弁護団のさらなる攻防が展開される予定だ。

双方の主張は真っ向から対立しているが、検察側の主張通り、藤井市長が現金を受け取っていたのだとしたら、潔白を主張している市長の政治生命は終わりを迎えるだろう。一方で、市長の有罪・無罪にかかわらず、警察・検察のずさんな捜査や強引な取り調べ、そして、ヤミ司法取引の疑惑という「より大きな問題」が白日にさらされ、厳しく問われる裁判となりそうだ。

(弁護士ドットコムニュース)

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