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自衛隊内ハラスメント「発達障害と暴言」「両胸をわしづかみに…」深刻な被害の実態 調査への不信感も
アンケートに寄せられた声

自衛隊内ハラスメント「発達障害と暴言」「両胸をわしづかみに…」深刻な被害の実態 調査への不信感も

「『死ね』『発達障害』などと暴言を吐かれた」「密室で上司から暴行を受けた」「両胸をわしづかみにされた」――。有志の弁護士グループが自衛隊員(元自衛隊員)や家族らを対象に実施した「自衛隊のハラスメント被害と組織の対応に関するアンケート」で、冒頭のような衝撃のパワハラ・セクハラ事案が寄せられた。

3月25日に行われた集会で公表されたアンケート結果は「自衛官の人権弁護団・全国ネットワーク」がウェブで実施(2023年11月1日〜12月31日)した際の回答者の中から、内容の公表を前提で追加調査に応じた24名の事例。過去の事例も含む一方、10年以内に起きた事例も少なくない。

自衛隊は2023年8月に組織内でのハラスメント実態を調査するよう、防衛大臣の指示に基づいて行われる特別防衛監察が実施されたが、「申し出たものの、その後音沙汰がない」「調査をしてもらえなかった」「防衛監察も組織ぐるみで隠蔽に加担」など、調査や機関そのものの不備を訴える声も寄せられている。

まずは被害時期が明確なもののうち、現在進行形、もしくは比較的最近の事例について一部を取り上げる。

●事例1・現役陸自男性)「死ね」「発達障害」「辞めろ」と罵声

〈師団の隊長から2年間にわたり嫌がらせを受けた。陸士に対して「死ね」「発達障害」「辞めろ」などと罵声を浴びせながら2時間超、隊長室で指導していた。師団の実施する年次監察アンケートに記入し、直接監察官にも話した。その後師団からの調査はなく、隊長は何事もなく異動。私は精神科にて適応障害との診断を受けたが、そのことにより何か対処されたことはなかった〉

このケースでは、後輩隊員も当該隊長のパワハラを年次監察に訴えたが、訴え出たことが隊長本人に伝わり〈激烈な指導〉を受けたという。

●事例2・現役空自男性)「お前は俺のおもちゃだ」と暴言

ハラスメントは新隊員教育期間に起きた。

〈(男性隊員から)両胸をわしづかみにされる、「お前は俺のおもちゃだ」など暴言を吐かれる。航空自衛隊のパワハラ相談室や上司などに相談と処分を求める。警務隊に暴行罪で被害届を提出するが、事後不起訴になった。その後加害者に軽処分がおりたがそれまでの経緯に組織の対応として不適切と感じる対応が多々あった。上司に民事処分で訴えることを検討している旨を伝えたところ「業務上の被害は国を訴えることになり、国は全力で戦うからやめたほうがいい」と説得された〉

●事例3・現役陸自女性)性的な噂話を流された

〈性的な噂話を流された。上司に相談したが、もみ消して被害を上級部隊へ報告しない様子だったため、法務幹部へ相談したが、「それくらいのことで」と断られた。ハラスメント相談員等にも伝えたが根本的な解決に至らなかった。加害者らの懲戒処分申し立てを実施し、主犯格のみ処分がおりた〉

2022年の特別防衛監察時に当時の調査内容について質問したものの、被疑者からの聞き取り調査しか行っていないにもかかわらず、「調査の結果、当時の懲戒手続きは適正に行われていたと確認した」と結論付けて当事者に報告していたことを確認したという。

●事例4・元陸自男性)下位隊員からのパワハラ

ハラスメントは必ずしも階級が上のものが下に行うケースばかりではないようだ。退職済みの陸自男性隊員が受けたケース。

〈下位隊員(先任上級曹長・准陸尉)から上位隊員(私)へのパワーハラスメント。「おまえ、最低だな。今すぐ階級章を外して自衛隊から出ていけ」、また事務室において大声で「おまえ、なめとんのか」などの暴言や机を蹴り上げるなどの恫喝を数回にわたり受けた。
 所属部隊長に対して文書により服務違反の疑いのための調査を願い出たが放置された。定年後に、公益通報制度により調査を依頼。陸上幕僚監部より調査を開始する連絡を受け、回答待ちの状況〉

●事例5・現役空自男性)加害上司は何事もなく早期昇任

〈密室で上司から暴行を受けた。先任にすぐに通報したがうやむやにされた(加害者が暴行したことを供述した直筆の書面がある)。「不満なら自衛隊だけが人生ではない」と退職を促され、その後3曹への昇任が、結果を出しているのに見送られ、加害者は何事もなく早期昇任を繰り返した。

隠蔽に徹し時効を迎えた。転勤後に訴え出たがそこでも圧力がかかったようで状況に変化なし。申立てしないという念書(誓約書)に署名を書かされ、申立て後も取り消すよう言われる。警察に相談しても組織に対応してもらうよう言われる。

関係者は加害者が暴行を認めたことを知っていながら暴行はなかったと処理しており、私は嘘つき・問題児扱いされ、退職を促された〉

●事例6・現役海自男性)申し立てをしても、あやふやにされる

パワハラにより、公務災害を認定された人もいた。

〈過重労働の強要、業務妨害、人格を否定する発言→健康を害し改善を求めたが何もされず入院→鬱病発症、入院中も仕事を強要。ドクターストップも無視。病気により制限がかかっていることを強要したり病気をバカにして著しく尊厳を傷つけたりと病状が悪化してしまい、現在は休職中。

特別防衛監察に申し立て。受理されたが海上幕僚監部はハラスメントに当たらないと却下。苦情申し立ての範囲でやるかやらないかはあなたの自由と言われた(やはり第三者が調査しなければ駄目)。苦情申し立てをしたが、これもあやふやにされている〉

隊員は「精神疾患を発症させて、責任を明白にせず、ケジメもつけず、説明責任も助力義務も果たさない。その背景にあるのは責任がかかるのは嫌だ、面倒なことは嫌だというつまらない理由。それを回避するために嘘を重ねている」と厳しく批判した。

●事例7・元陸自男性)部隊の隊員たちに別れの挨拶すらできずに退職

転職のため退職したくてもさせてもらえなかった実態を訴えた、退職済みの陸自男性隊員のケース。

〈3か月後に退職したいと意志を伝えたところ、部隊長に握りつぶされ、翌年まで延期されそうになった。この際、「部隊長に報告なしで転職活動をしたことは許されない」「休日に行ったとしても転職活動は『職務に専念する義務』の違反となるため、処罰の対象となる」「内定は辞退しろ」と断定的な口調で脅迫された〉

元隊員は公益通報窓口、パワー・ハラスメントホットライン(人事教育局服務管理官)、旅団心理カウンセラーの3カ所に相談したが、いずれも解決の糸口にはならなかった。また、心理カウンセラーは親身に話を聞いてくれたものの、退職については「わがまま」などと発言。外部の弁護士に相談し、解決に至ったという。

〈「上司が原因で適応障害を発症し、自分が苦楽を共にした部隊の隊員たちに別れの挨拶すらできずに退職したことが悔やまれてなりません」〉

●30年前の性暴力を告白した元隊員も

過去の事例についても回答が寄せられている。

退職済みの空自男性隊員のケースで、約10年前の体験談もあった。

〈飛行隊の先輩にあたる1等空尉から、課業後から日付が変わるまで7時間以上にわたり説教と拘束をされるということが複数回あった。調査を求めたが、もみ消されてしまった。このパワハラの経験から、それまで考えることもなかった退職を決心して退職した〉

すでに退職している陸自女性隊員からも寄せられた。30年前の出来事だというが、心身が受けたダメージ、組織への不信感が残っているからこそ、アンケートに応じたものと思われる。

〈家庭もあり子供もいる上司から、自分と性的関係を結ぶなら3曹昇任させてやると言われ、結構ですと断ったら頭を殴られたことがあった。その後、その上司から夜勤の仮眠時に突然襲われた。人払いをしていたようで、口をふさがれ抵抗できずレイプされてしまった。その上司は、他の女性たちにも同じことをしていると言っていた。セクハラの相談電話では何も対応してもらえなかった。友達が私の部隊に連絡してくれたが、加害者の友達に揉み消された〉

●「訴え出たことで、かえって被害を受けることも少なくない」

アンケートを実施した「自衛官の人権弁護団・全国ネットワーク」の武井由起子弁護士は「ハラスメントを受けている当事者だけでなく、同僚や家族が被害に遭っているのを見かねてアンケートに答えた人もいる。自衛隊は特別防衛監察に力を入れているというが、回答からはたらい回しにされたり、事実上放置されるなどしている不十分な状況がうかがえる」と述べる。

また、「自衛官の人権弁護団・北海道」代表の佐藤博文弁護士は「直の上司が加害者の場合、特別防衛監察に訴え出ても個別の調査権はなく、部隊や師団など当該組織に調査・処置を依頼するため、訴え出たことが上司に分かってしまい、かえって被害を受けることも少なくない。だから訴え出る人も少ない」と話す。

「自衛官の人権弁護団・全国ネットワーク」は続いて、特別防衛監察に関するアンケート「特別防衛監察110番」を実施。五ノ井里奈さんに対するセクハラ事案を受けて自衛隊が実施した特別防衛監察で被害を訴えた隊員や関係者を対象に、4月30日まで回答を受け付ける。

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