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政府が「強姦罪」厳罰化を検討 「性犯罪抑止のためには治療こそが必要」と弁護士
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政府が「強姦罪」厳罰化を検討 「性犯罪抑止のためには治療こそが必要」と弁護士

性犯罪の厳罰化を議論してきた国の有識者会議は8月6日、強姦罪の法定刑の下限引上げや、強姦罪や強制わいせつ罪の起訴に被害者の告訴が必要となる「親告罪」規定の撤廃について、賛成が多数だったとする報告書をまとめた。法務省はこの報告書を踏まえ、刑法を改正すべきかどうかの検討に入る。

会議では、強姦罪の下限(懲役3年)を、最低でも強盗罪並み(下限が懲役5年)にすべきかが議論された。報道によると、委員の多くが下限の引上げを支持したという。また、被害者に告訴の負担をかけずに加害者を罰すべきだなどとして、非親告罪化を求める声も多くあがった。

このニュースに対してツイッターでは、「強姦罪は強盗と同等以上、強盗致傷となんら変わらない。女性の一生に関わることを考えれば殺人に劣らない犯罪」「強姦罪や強姦致傷・致死罪も含めて抑止・制裁を強化すべき」と、性犯罪の厳罰化に賛同する意見が多数見られた。

●厳罰化は性犯罪の抑止にならない?

こうした意見に対して、林大悟弁護士は「厳罰化を求める人たちの心情は理解できます。しかし、厳罰化に性犯罪抑止の効果があるかどうかは疑問です」と語る。なぜだろうか?

「性犯罪を犯す人は、『性障害』という精神的な病気にかかっている場合が多く、『長期の服役を考慮して自分の衝動を抑える』ということができないからです。厳罰化だけでは、性犯罪の抑止にはつながりません。

性犯罪を抑止するためには、一般社会および刑事施設での専門的な治療環境を整備することのほうが必要です。性犯罪の再犯を防ぐためにも、こうした整備こそが必要不可欠だと考えています」

具体的に、どのような治療が必要なのだろう。

「性障害に関しては、薬物療法や認知行動療法などの治療法があります。特に、性欲を減退させる薬物療法は、その治療効果が証明されていると言われています。犯罪を起こす前に、治療を受けることができるよう、『性障害には治療が有効である』と社会的に認識される必要があるのではないでしょうか。

また、性犯罪を起こしてしまった後でも、刑事施設への収容時に、性依存症者に適切な治療機会を与えることにつながれば、再犯防止が期待できるでしょう」

しかし「現状では、刑事施設での治療環境が整っているとは言いがたい」と林弁護士は指摘する。

「この現状のまま厳罰化だけを進めても、性犯罪の抑止にはつながらないと考えます。

被害者保護のためにも、単に法定刑を引き上げるだけでは不十分であり、性障害の治療、社会復帰後の再犯防止の体制を整えることが極めて重要です。

また、今回の報告書では、強姦罪などを起訴する際、被害者の告訴が必要でない『非親告罪』に変更するとの提言も盛り込まれています。しかし、なかには、被害者が被害を公にしたくないがために、捜査しないでほしいと望むケースもあると思われます。被害者のプライバシーへの配慮や、意志に反する起訴をしないといった配慮が不可欠です」

林弁護士はこのように話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

林 大悟
林 大悟(はやし だいご)弁護士 鳳法律事務所
横浜弁護士会所属・全国万引犯罪防止機構正会員・一般社団法人アミティ代表理事・日本労働弁護団常任幹事・一般社団法人弁護士業務研究所理事。主にクレプトマニア患者や認知症に罹患した高齢者の万引き事件、性依存症者による性犯罪事件等に特化して全国で弁護活動をしている。

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