士業の生成AI活用最前線 債務整理の電話応答をAIで即時チェック、聞き漏らしゼロへ
ビジネスの現場では、生成AIをいかに業務に組み込むかが大きな課題になっています。一方、正確性などにはまだ不安が残り、仕事の性質上、業務利用をためらう士業も多いようです。 現状のレベルでどんなことができるのか。士業のAI活用の最先端を取材しました。
●日本最大級の司法書士グループの導入事例
今回取材に応じてくれたのは、司法書士の宮城誠さんと島田雄左さんです。
宮城さんが代表を務める「司法書士法人みつ葉グループ」は従業員数280名で、日本最大級の規模を誇る司法書士法人です。
島田さんは士業の集客や業務効率化を支援する「スタイル・エッジ」の社長で、みつ葉グループのAI導入をサポートしました。
今回は債務整理のコールセンターでの活用法を紹介します。
●相談者へのLINE返信、生成AIが速さと正確性を支える
まずは相談者に対し、寄り添った内容のテキストを返す作業です。
みつ葉グループでは、電話・メール・LINEと問い合わせ手段ごとにチームをつくり、債務整理の問い合わせに対応しています。
宮城代表「LINEはいかに素早く返事をするかが求められます。しかし同時に、事務所としてのオフィシャルな内容で返さなければいけません。速さと正確性の両立というジレンマがありました」
特に経験が浅いメンバーがいると、返信の質がバラバラになってしまうことも課題に感じていたそうです。
そこでスタイル・エッジが活用したのが、あらかじめプロンプトを設定しておける「GPTs(ChatGPTの場合)」や「Gem(Geminiの場合)」の機能です。
島田社長「それぞれの事務所に相談に対する判断基準であるとか、教育用のオペレーションマニュアルがあると思います。そういったものをAIに教え込みます」
具体的には、“専門用語を使わない”とか、“法律相談に当たる具体的な判断はしない”といった方針や禁止事項をプロンプトに並べます。そのうえで、スタイル・エッジのAI担当者がみつ葉グループ側と話し合いながら調整を重ねました。
島田社長「プロンプトのプロが入ったほうがより精度は高くなりますが、これ自体はそこまで複雑なプロンプトではありません。ChatGPTに『こういうことをしたいのでプロンプトをつくってほしい』という相談から始めてもいいかもしれません」
現場では、問い合わせを受けたオペレーターが相談者からの文面をGPTsにコピペする形で使われています。出力された内容はチームリーダーが確認したうえで送信していますが、確認作業に特化したGPTsもあるとのこと。調整を進めて、確認の負担もより小さくしたいといいます。
●AI文字起こし×GPTsで「聞き漏らしゼロ」目指す
債務整理の電話対応でも生成AIは活躍しています。
宮城代表「経営側からすると、オペレーターが電話でどういう話をしているかは気になります。事実関係が間違っていたり、聞き漏らしがあったりすると、資格者(司法書士)が面談したときに聞き直しをする必要が生じます」
みつ葉グループではもともと、録音した通話を品質向上のために活用していたそうです。そこでスタイル・エッジが提案した解決策はこういうものでした。
島田社長「電話でヒアリングをしながらリアルタイムでAI文字起こしをするようにしました。ボタンを押すと、AIが事務所のチェック項目に照らして、聞き漏らしがないかなどを要約・採点するGPTsを作りました」
運用では相談者から一通り話を聞いたあと保留の時間を設け、内容をAIにチェックさせています。聞き漏らしをその場で解消できるため、ヒアリング精度が大幅に向上したといいます。
島田社長「これまでは新人オペレーターにフィードバックするため、録音を一つひとつ聞き直していました。今はアラートが出た部分を聞くだけで済みます。都度、採点されるので、本人がコツをつかむまでのスピードも上がりました」
●「生産性」だけではなく「品質」の向上が目的
みつ葉グループでは、AI活用やDXに全力で取り組むことを従業員に宣言しているといいます。
宮城代表「生産性向上はもちろんそうですが、一番は誰がやっても高い価値を提供できるという、全体の品質向上のためにAI活用が必要だと考えています。選抜された、感度の高い従業員にAI活用のトレーニングをしており、波及効果を期待しています」
今回のコールセンター業務への活用ほど本格的ではなくても、先々を見据え業務フローにAIを加えたいと考える士業も多いことでしょう。
島田社長によると、AI導入はミーティングを録音して議事録を作成するといった使い方から進めていくことが多いとのこと。参考にしてみてもいいかもしれません。
次回は、書類作成での活用事例をご紹介します。