ルールメイキングで日本と日本企業に活力 BUSINESS LAWYERS AWARD 2025 岩間郁乃弁護士
「BUSINESS LAWYERS AWARD 2025」全受賞者インタビュー。次世代選抜部門の岩間郁乃弁護士(森・濱田松本法律事務所外国法共同事業)に聞く。 【受賞理由】 経済産業省で新事業を後押しする「グレーゾーン解消制度」や「規制のサンドボックス制度」の企画・運営に携わり、国のイノベーション政策を内側から支えた。「スタートアップ向けの公共政策法務」という新分野の創出に取り組み、行政の肌感覚を理解した上で、ステークホルダーと対話しルールをつくる姿勢は、現代の政策形成を体現している。官民を架橋する次代のリーダーとして将来が嘱望される。 【プロフィール】 いわま・あやの 東京大学法学部卒、同法科大学院修了。公共政策・規制改革案件を中心的に取り扱う。5年半の経済産業省での勤務経験を生かして、規制のサンドボックス制度の利用、官公庁への照会に関する経験が豊富。テクノロジー、金融、ヘルスケアなどに幅広く対応する。一般社団法人スタートアップ協会 ルールメイキングアドバイザー。
自分の頭で考え抜く
表彰式後のコメントで岩間郁乃氏が「仕事の上での指針」として挙げたのは、民法学者・我妻栄先生の言葉だった。「法解釈学は、実現すべき理念の探求を伴わない限り盲目であり、現代社会の実態・法への要請を考慮しない限り空虚であり、理路整然たる法的構成を伴わざる限り無力である」。力を入れている「公共政策法務」に欠かせない視点である。
国内の民間企業から湧き上がってくるエネルギーを、いかに国が後押しし、世界で戦える力にするか。既存のルールが、進化の足かせになるときもある。しかし、やみくもに敵視し、対決するだけでは事態は進まない。弁護士の役割は明確だと岩間氏は語る。「規制する側にも、守るべき保護法益がある。対立構造ではなく、建設的な議論をし、解決策を探る。そこに弁護士の力量が問われます。どう理屈をつけて橋渡しをするかが問われています」
経済産業省では規制改革担当部署に所属した。医療系アプリ、Web3ビジネス、観光サービスなど、スタートアップをはじめ新しいビジネスに向き合った。「先進的な事例を知ることができて楽しかったし、スタートアップ分野への関心の高い同僚との知遇も得て活気があり、非常に感銘を受けました」。弁護士の出向が少なくない省庁とはいえ、当該部署は新しい法律問題が次々出てくるところ。法律のプロとして、頼りにされた。
法律や制度を幅広く調べ、この解釈ならいけると考え抜く。「条文と解釈を組み合わせ、どうすれば解決策を導けるか。考える醍醐味があります」。参考書は少ない分野も数多くあるものの、自分の頭を使って、新規事業を社会実装につなげていく。弁護士としての使命を改めて感じたという。
攻めの公共政策法務で実績つくる
もともとは官僚を志していた。新聞部に所属していた中高時代、毎日読んだ新聞を通して知った社会の課題を自分が解決したいと思った。城山三郎著『官僚たちの夏』にもあこがれ、大学では政策立案サークルへ。公共政策に関心を持ち続けながら、民間でビジネスを知ったほうが、より幅広く社会に貢献できるのではと考え、弁護士になった。
「ルールを制する者がビジネスを制する」。岩間氏は強調する。イノベーションが次々と生まれる国際社会で日本企業が戦うには、複雑な規制状況の把握とそれを使いこなす力が必須だ。海外では法律家がこうした支援に関わっているなか、日本の法律家が出遅れれば、日本と日本企業の国際的な競争環境を害するとの考えからだ。
米国では、弁護士ランキングの業務分野としてGovernment Relations(政府渉外)があるほど確立されているが、日本では「公共政策法務」という言葉の認知度もまだ低い。また、ルールは守りの部分だけでなく、攻めの部分もある。ルールメイキングの意識を高めて、日本のルールが国際標準化するところまで見据えていくべきだといい、後手に回りがちな日本に意識転換を促す。
2025年1月から森・濱田松本法律事務所外国法共同事業に参画し、クライアントへの公共政策法務の提供を始めたばかり。「考え抜いて申請書を出して、適法だとの回答が得られれば嬉しい。まずは弁護士を使ってよかったという実績をつくること。目に見える成果が出るのはこれからです」と意気込む。望むのは、イノベーションが社会実装され、先進的なビジネスモデルで日本が豊かになり、さらにそれらの多くが日本から輸出される未来だ。
アピールし続ければ道は開ける
変化の激しいビジネスの世界で、法案改正や国会審議のプロセスに時間がかかり、タイムラグを生んでいるとの批判もある。しかし、岩間氏は「民主主義を採っている以上仕方のない面もある」と冷静だ。一方で、イノベーションが実装しやすい環境を整えることで対応すべきだとし、規制のサンドボックス制度など、失敗も許容しつつ変化に柔軟に対応していく仕組みづくりにつなげたいと意欲を示す。現状を憂うのではなく、どうすれば解決できるかを、諦めずに粘り強く考える。スタートアップの思いに共感したのも、自身が常に新しい価値観を生み出そうと努力しているからなのかもしれない。
まだ30代。日本のビジネスを盛り上げたいと言い切る。弁護士になりたての頃から、公共政策にまつわる勉強会を見つけては、顔を出すようにして人脈をつくったという。「ずっとパブリックポリシー(公共政策)をやりたいと言い続けて来ました。自分のやりたいことを見つめ、恐がらずにアピールすることが大事です。官民は共創の時代。橋渡し役を担って、より良い日本につなげたい」。新たな道を切り開く挑戦は続く。