弁護士、会計士、データサイエンスなど多数の資格取得…マルチスキルで実現するコンサルの道
弁護士、公認会計士、司法書士、不動産鑑定士、データサイエンスの資格など、多数の難関資格を取得して、コンサルティングサービスを展開する松田康隆氏は「複数の専門性を持つことで、高いレベルの『ジェネラリスト』として、企業の課題解決に取り組みたい」と語る。士業関係者も近年は口々に「コンサルティングサービスが大事だ」というが、付加価値の高いコンサルティングサービス提供をするためには何が重要なのか。松田氏に詳しく聞いた。(プロフェッショナルテック総研・新志有裕)
公認会計士からスタート、ITに触れる中で法律の重要性に気づく
ーーたくさんの資格を取得していますが、どのような経緯があるのでしょうか。
私はもともと理系で、数学の研究者になりたかったのですが、方向性の違いも感じていて、大学4年の時に公認会計士の試験に合格しました。その後大学院に進学しましたが、結局はアカデミアの道ではなく、監査法人(有限責任監査法人トーマツ)に就職してキャリアをスタートしました。
その後、PwCでリスク管理や定量分析のコンサルティングを経験し、外資系生保のアフラックのデジタルイノベーション部門でAI開発やデータサイエンティストの仕事もしました。
その際、AIやDX(デジタルトランスフォーメーション)の取組を進める中で、個人情報保護法、不正競争防止法、著作権法などの法制度への対応が問題になる場面を多く経験し、法律知識の重要性を強く感じたのです。予備試験ルートで司法試験に合格し、2023年に弁護士登録しました。
また、これまでに不動産鑑定士、米国公認会計士の資格を取得したり、税理士登録をしたりもしています。
弁護士になってからは、独立して法律会計事務所を経営するとともに、コンサルティング会社を立ち上げて、ITコンサルタントとしての仕事も請け負っています。主にはデータサイエンスやDXの領域でサービスを提供しています。
ゴールは顧客の課題解決、そのために資格の知識が役立つ
ーーたくさんの資格を取得されていますが、最終的なゴールはどこにあるのでしょうか。
私の場合、究極的にはコンサルティングサービスの充実を目指しています。クライアントの課題解決こそがゴールであって、そのために使えるツールとして、それぞれの資格や知識が分岐する形で存在しているイメージです。
例えば、弁護士資格を持ち法律知識があることで、DXやAI分野でのガバナンス構築や、新規施策の立ち上げ・推進のコンサルティングをする際に役立っています。
体系的に知識が整理されていることで、必要な知見の提供速度が高まるというメリットも大きいです。コンサルタントは基本的にスピードが重要で、クライアントから課題を提示された瞬間に適切な情報・インサイトを提供できるかで評価が大きく変わります。その点は、資格取得の際に行った体系的な知識のインプットが大いに役立っています。
また、資格を持つことでクライアントからの信頼が高まったり、コミュニケーションが円滑化するというメリットもあります。コンサルタントはクライアントからの信頼を得られなければ終わりなので、特に初対面の際に弁護士としての信頼感を印象付けられるメリットは大きいです。
複数の資格があることで、相乗効果も生まれる
ーーそれぞれの資格の相乗効果もあるのでしょうか。
例えば、弁護士と公認会計士の両方があれば、企業法務やM&Aの案件に強みが生まれます。財務と法務のデューデリジェンスを一人で完結できるので、小規模なディールでも引き受けやすくなります。
弁護士と税理士という組合せであれば、税務訴訟や税務調査対応への強みにつながります。また、不動産鑑定士として不動産価格や賃料の理論と実務に精通していることで、不動産関連の訴訟では見通しが格段に良くなります。
司法書士は、最新の登記実務に関する研修を受けたり、人脈を作れる点にメリットを感じています。米国公認会計士は外資系のクライアントからの信頼獲得に役立っていますね。
コンサルタントとしては、物事を前に進める力が重要
ーー最近は、弁護士や税理士といった士業関係者もこぞってコンサルティングサービスが重要だと言っていますが、弁護士とコンサルの仕事は異なるものなのでしょうか。
共通している点と異なる点があります。
共通点でいうと、論理的思考力ですね。ファクトとロジックに基づいて意思決定をする感覚は近いものがあると感じます。また、弁護士もコンサルも、クライアントと同化せず、ちょっと引いた客観視点で物事を見ることが期待されていると思うので、そのあたりの頭の使い方も似ています。
一方で、物事の進め方に対するスタンスが大きく異なります。コンサルは基本的にクライアントの何らかの取組を推進することが求められており、前方への推進力が極めて重要です。イメージとしては、コンサルはアクセル、弁護士はブレーキとしての役割が期待されることが多いという印象です。法律専門家としての知見提供が求められる弁護士業務と、包括的な課題解決力や推進力が求められるコンサル業務は違うものだと思って、頭をうまく切り替えながらやっています。
また、スピード感に対する意識にも違いを感じます。コンサルはレスポンスのスピード感をより強く求められます。あくまでイメージとしての例ですが、弁護士は受話器を手で持って電話する先生も多いですよね。コンサルは基本的に受話器を持たず、イヤホンで顧客と対話しながらパソコンでメモを取ったり調査を行ったりして、可能な限りリードタイムなくレスポンスして物事を進めます。士業からコンサルに業務を展開する方は、このあたりの頭の切り替えは必要になると思います。
ーーただ、最近は大手のコンサルティング会社で、弁護士が活躍しているケースも増えているのではないでしょうか。
大手のコンサルファームは、様々なバックグラウンドや専門知識を持った人たちがチームを組んでサービス提供をしているので、チームやファームにおける法律の専門家という立ち位置でやっている弁護士も多いと思います。それも一つの戦略ですね。
AIが普及しても、「信頼」が重要になる弁護士やコンサルは置き換えられない
ーーAIの進化によって、専門知識を持っていることの強みがなくなっていくという予測もありますが、そうなっていくのでしょうか。
資格によって異なるでしょうね。弁護士業務は簡単にAIに置き換えられるものにはならないでしょう。AIがやっていることは基本的にパターン認識で、過去に蓄積されたデータを学習し、それに沿ったアウトプットをしているに過ぎません。一方、弁護士業務は専門知識やデータだけで出来るものではなく、クライアントや社会からの信頼、伝統に基づく権威性が重要であり、これらをAIが代替するのは不可能です。
コンサルも同様でしょう。コンサルにも様々なスタンスがあり、他社の成功事例の情報を横流しするだけのコンサルタントもいますが、クライアントと信頼関係を築き、クライアントの課題に真に寄り添ったサービスを提供することができていれば、AIが普及した時代でも付加価値を高めていくことはできると考えています。
専門性の軸を複数もった「ジェネラリスト」になることが重要
ーーコンサルタントとして付加価値を高める場合、何が重要なのでしょうか。
弁護士業務はある程度メニューが決まっていて、それに対する報酬がいくらというのがわかりやすいのですが、コンサルにはそういったものはありません。何を提供すればどの程度の付加価値があるかを、マーケットを見ながら自分で考えて定義することが必要です。セルフブランディングも弁護士の延長線上では不十分で、コンサルのマーケットにおける顧客目線で考える必要があります。
ーー資格取得のための時間はどうやって捻出しているのでしょうか。
仕事をしながら司法試験の勉強をしていた頃は、入浴中も判例の文言を唱えていましたね。コンサル業務と同じで、スピード勝負です。時間の使い方は常にシビアに意識しています。
ーー今後、資格とはどのように向き合っていくのでしょうか。
クライアントの課題に適合したコンサルティングサービスを提供するためには、幅広い知見や技術が必要ですが、「何でも屋」になるとかえって軸がぶれてしまう可能性があります。複数の専門分野を持つ「ジェネラリスト」になることが重要だと考えています。
軸を持つという意味で資格は便利ですが、ペーパー資格になっては意味がありません。継続研修制度や業界雑誌を活用して、最新の知見や法改正に常にキャッチアップするよう心がけています。
今後は、士業の資格というよりも、日進月歩のIT系の資格に注力していきたいです。国の資格だけでなく、ITベンダーが提供している資格もあり、有効期限がある資格も多いです。ハイクオリティなコンサルティングサービスを提供するために、まだまだレベルを上げていきたいですね。
松田康隆(まつだ・やすたか)弁護士
東京大学理学部数学科卒、経済学研究科修士課程修了。弁護士以外に取得した資格は、公認会計士、税理士、司法書士、米国公認会計士、不動産鑑定士、宅地建物取引士、IPAデータベーススペシャリスト、統計検定1級など多数。2023年にロジットパートナーズ法律会計事務所を設立。ITコンサルティングサービスを提供する企業も経営している。