「就任後も日々研鑽」 日弁連の社外取ガイドラインが求める姿勢
社外役員が増えたのはこの10年ほどだが、日弁連ではそれ以前から社外役員の重要性を訴えてきた。弁護士は社外役員としてどのような役割を果たせるのか、そのためにはどのような素養や研鑽が必要なのだろうか。日弁連司法制度調査会の社外取締役ガイドライン検討チーム座長を務める中西和幸弁護士に聞いた。(取材・文:園田昌也) (弁護士ドットコムタイムズVol.77<2025年12月発行>より)
独立性と発言力への高い期待
―弁護士の社外役員就任について、日弁連ではどんな取り組みをしていますか
日弁連には、司法制度調査会という常置委員会があり、その中の商事経済部会で2013年から「社外取締役ガイドライン」を策定しています。当時は企業不祥事が相次いでおり、だったら外部の目を入れたほうが良いですよね、という提言でした。
弁護士の起用に限らず、幅広い社外取締役候補者や企業を対象とした内容で、金融庁や経産省、東証、日本監査役協会などにも意見を聞いてまとめています。コーポレートガバナンス・コードの適用が2015年ですから、先駆的な動きと言えるかと思います。2015年、2019年、2023年と計3回改訂していて、解説書も出しています。
このほか、単位会の活動になりますが、男女共同参画推進本部を中心に企業に対して社外役員を希望する、特に女性弁護士の名簿提供事業なども実施しています。
―弁護士にはどんな役割が期待されているのでしょうか
コーポレートガバナンスは、特に企業の守りで重要です。日本の取締役会だと、1人でも反対者がいると意思決定が困難です。つまり、反対票を行使すると事実上のストップがかけられます。それだけ責任が重いわけですが、弁護士には監督役としてリーガルマインドに基づいた質問、発言が期待されます。
法的な助言という点では、企業には顧問弁護士もいますが、事業にがっつり入っているので会社との距離が近いことが通常です。社外役員の弁護士なら、より客観的な立場から物事を見られます。
また、弁護士には本業もあるので、職に固執することなく経営者をいさめられるだろうという期待があります。収入源として頼ってしまうと、クビにならないよう何も言えなくなってしまいます。この経済的独立性という点は、経産省の「社外取締役ガイドライン」(2020)にも記載があります。
―客観的な意見ができるところが肝なわけですね
そうです。いざ会社が不祥事を起こしたときは、調査委員会の立ち上げや委員の選定などが必要になります。業務にかかわっていない社外の人間だからこそ、冷静に対応できるというメリットもあります。
「法律バカ」ではダメ
―法律以外の分野にはどのくらい通じている必要がありますか
経営監督のためには、企業の現状やリスクを適切に知っておく必要があります。ですから「法律バカ」ではダメです。法律だけでかかわることは、法律家としての社外取締役の機能ではありません。
たとえば、「有価証券報告書」や「コーポレートガバナンスに関する報告書」などの公表資料が読めないと、危険な会社の仕事を引き受けてしまうことになりかねません。基本的には綺麗なことしか書かれていませんが、書かれていないこと、裏側まで読み取れなくてはなりません。
そもそも決算書が読めないと経営監督なんてできませんよね。専門的知識まではいかなくても、コーポレートファイナンスの基礎を一通り頭に入れ、すぐに思い出せるくらいの勉強も必要です。これは機関投資家や金融庁、経産省の方からもよく言われます。
また、たとえ企業法務に通じていても、弁護士のもとに来る案件は言わば上澄みです。実際の企業で何が行われているか、知らないことのほうが多いと思ったほうがいいでしょう。ガイドラインでも「必要な知見を習得するよう、日々研鑽に努めるべき」としています。ぜひ法律以外の分野も勉強していただきたいと思います。
―法曹だと、裁判官や検察出身者がなることもありますが…
選ばれるときは確かに肩書きや権威のほうが大きいのかもしれません。ただ、これまで培ってきたものとは別のものが求められますから、私の知っている方たちは皆さんすごく勉強されています。裁判官や検事を辞めたら自動的に仕事が来ると思っていたらなかなか仕事は来ないし、選任されても簡単には再任されません。
これは余談ですが、高裁長官などを経験されている裁判官出身者は、実は人事面のスキルで大きな強みを持っています。組織を上り詰めてきた方たちは人事的な感覚が鋭く、人を見る目がすごいんです。
―負担も大きそうです。一度に何社ぐらい兼務できるものでしょうか
きちんとやろうとすると、相当の時間を割くことになります。求められる役割や仕事量にもよりますが、ガイドラインでは、例として「3社程度」に抑制すべきとしています。本業の時間はかなり削られてしまうでしょうね。
―今後、日弁連としてどういう部分に力を入れていきますか
2015年から毎年、社外取締役についての公開講座を開いています。最初は参加者が100人ぐらいでしたが、現在は弁護士に限らず、400人ほどが聴講してくれています。ガイドラインは、さまざまなバックグラウンドを持ったすべての社外役員候補の役に立つと思いますので、会社法やコーポレートガバナンス・コードの改正に合わせてこまめに改訂し、特にビジネス界の弁護士以外の方の認知度を高めていきたいです。
中西和幸(なかにし・かずゆき)弁護士
田辺総合法律事務所パートナー、第一東京弁護士会(47期)。株式会社グローバル・リンク・マネジメント(プライム:3486)社外取締役監査等委員。日弁連では「社外取締役ガイドライン」に制定時から携わる。